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PIG ピッグのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

PIG ピッグ(2021年製作の映画)
5.0
シリーズ:落選。ニコラス・ケイジが格調高いドラマ作品に?料理界へのラブレター、愛と喪失が詩的に描かれます。鑑賞者に判断を委ねたエンドクレジット終盤の演出など余韻を残し静かに漂うような美しい作品です。

ニコラス・ケイジにもニコラス・ケイジが出るような作品にも興味はない。そんな私がまさか彼の主演作にあっさりと5.0をつけることになるとは思わなかったが、ドンピシャ好みの映画でした。人と自然を区別しない東洋的な哲学の美しさが強く意識されています。

森の奥深くで世捨て人として生きるロブは、相棒の豚さんとトリュフ採取をして生活。トリュフの取引のため木曜日に訪ねてくる若者アミルとかわす数単語が唯一の外界との接点です。ところがある日、愛する豚さんが何者かに誘拐されてしまいます。ポートランドを舞台にアミルとともに豚を取り返す旅が始まりますが、そこでロブとアミルはそれぞれの過去、家族、そしてトラウマに向き合うこととなります。

ロブとアミルの関係性が大好き。単にそれぞれの正体や過去が前半の伏線を次々に回収しながら明らかになっていくだけでなく、それらが複雑に絡み合うことで二人の関係が構築されていく様は圧巻です。かといって全てを提示するわけではなく、残された余白は鑑賞者それぞれの個人的経験によって埋められていく。

食の偉大なパワー。美しい自然に育まれた食材は、人間の金や欲望、愛憎にまみれた市場によって汚されていく。そうして到着した調理場で、料理人はなんとか再び食材を浄化し、食す者のことを想い魂を込め調理をし、皿に載せてサーヴさせる。自らの全てを犠牲にして...もう今度レストランに行ったら何の気なしには料理を食べられない。

I want my pig back.
劇中で何度も何度もロブが言うセリフです。もちろん文字通り愛する豚を取り戻したいのですが、ロブの事情が少しずつ明らかになるにつれ、"pig"が彼にとって別の意味を含んでいることに気づかされます。

これを撮ったのが、俳優あがりの新人監督さんというのは驚き。物静かでスローなPTAという感じでしょうか。映画のテイストや撮り方以外にも、PTAの全作品に共通するテーマである"surrogate family (代理家族)"の要素が本作でも強く感じられます(家族を養う糧の象徴であるパンにご注目を)。

各所レビューですでに指摘されていますが、ワンシーンだけ「これ必要?」という場面があり、明らかに浮いていて謎でした。まあご愛敬かな。

エンドロールはくれぐれも最後までお静かに!ロブのその後の姿については、エンドロール終盤に劇伴として音声のみで伝えられ、鑑賞者の解釈に委ねるという粋な仕掛けになっています。そのため、鑑賞者それぞれの死生観や喪失との向き合い方が思い描くロブの姿に反映されます。観られた方にはぜひ、この結末の解釈をお聞きしたいですね。私の解釈はコメントでネタバレあり表示にて記載します。
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