りっく

ファザーフッドのりっくのレビュー・感想・評価

ファザーフッド(2021年製作の映画)
2.8
https://www.shimacinema.com/2021/06/21/fatherhood/

もともとソニーピクチャーズ配給によって劇場公開される予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響でNetflixに売却され配信された本作。子供が生まれてくるまで悠長に過ごしていた男が、緊急の帝王切開によって予定日より早く父親になった戸惑い冷めやらぬうちに妻が急死し、父親としての自覚なきままシングルファーザーとして娘を育てることになった実話に基づく物語だ。

寝る暇もない子育ての日々。自分の母親と亡き妻の母親の助けとプレッシャー。子育てと仕事の両立。自分が置かれた環境が激変し、目まぐるしい日常とどのように折り合いをつけるか。その過程で自己嫌悪が繰り返され、自己肯定感が削がれていく感覚は、父親として子育てする経験を持つ者なら思わず共感してしまう光景だ。

そんな中で、完璧な親なんかいない、日常の小さな勝利を心のなかに集めていき財産にすることが大切だと言葉をかけてくれることが、どんなに救いになることか。子育ての大変さから、子育てする喜びを描いていくとともに、自己肯定感を少しずつ回復していくケビン・ハートの表情は、観る者をポジティブにさせる。

だが、本作は父親と娘の物語に終始しており、いくらなんでも射程が狭すぎるように思う。昇給の話を蹴り、出張をすっぽかして我が娘のもとに向かう父親。あるいは、女の子らしさを強要する学校を挑発する姿勢を見せる父親。仕事や学校といった対社会や対人間の関係性が中途半端に描かれているからこそ、すんなりと幸せな光景を信じられないのだ。
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