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Frances Ferguson(原題)のGreenTのレビュー・感想・評価

Frances Ferguson(原題)(2019年製作の映画)
3.5
フランシス・ファーガソン(フラン)は、ネブラスカ州のノースプラットという小さな田舎街に住んでいるミレニアル世代の女性。結婚して小さい娘がいるが、旦那は帰宅後、車の中でスマホのポルノを見ながらオナニーしてから家に入ってくるというくらい夫婦生活は崩壊している。

フランは高校の非常勤講師をしているが、臨時の勤務の際は娘を保育園に預けなければならず、給料より保育園の費用の方が高い。フランス語の先生なのにバイオロジーのクラスの子守を頼まれたり、生徒たちは非常勤講師を完全にバカにしていて、承認欲求が満たされることもない。

フランはテキストばかりして授業を追い出されたジェイクという生徒と話をし、それで久々に欲情を覚え、学校の駐車場の車の中で、ジェイクを盗み見しながらオナニーする。その後、やたらテキストで呼び出して、ついにホテルでセックスするが、あまりにも世間の目を気にしないフランにビビったジェイクが通報したのか、未成年とセックスした罪で逮捕される。

Based on true eventsとかって出るけど、Frances Fergusonで検索しても、1947年生まれの大学講師しか出てこないので、『ファーゴ』のような「やらせ」なのかな〜と思いました。教え子の高校生と性的関係を持った非常勤講師を追うドキュメンタリーのような突き放した形式で描いていて、男性のナレーターが語るんですけど、それが面白がっているような語り口だったり、フランに罪悪感が感じられないところとか、フランが強制的にやらされるセラピーなどのバカバカしさがドキュメンタリーより赤裸々で、そこが面白いドライユーモアなのかな?という感じです。

私としては、未成年者への性犯罪に対する概念にチャレンジされている気がしました。

まず、フランが全く罪悪感を持ってないように見える、というか、彼女の生活があまりに夢も希望もなく、周りを取り巻く人たちもしょーもない人たちばかりなので、「別に捕まって犯罪者になってもいいや」みたいなことろがある。

相手の男子高校生も、フランに夢中になるとかじゃなくて、ちょっとバカにしていて、この子に同情する気にもならないし、フランも性欲だけなんですよね。要するに2人が恋に落ちたとか、もしくはどちらかがどちらかを悪の道に引きずり込んだ、みたいなのだと面白いのですが、そうでもない。

フランは子供のこともどーでもいいみたいだし、夫も母親も嫌な奴。夫はここぞとばかり離婚してくるけど、フランも別にそれでも良い。

小さい町なので、センセーショナルな事件として扱われ、いやがらせをされたり、レストランで写真を撮られたりするんだけど、フランはそれさえも大してなんとも思っていない。

性的犯罪者はカウンセリングを受けなくちゃならないんだけど、これがまた全く的を得ていない感じがする。フランは精神を病んでいるわけでもなく、助けを求めているわけでもない。

仮出所を審査する警察の男とか、フランが性犯罪を犯したと知っていても興味を示してくる男たちは、フランが美人なのにわざわざ捕まるようなことをした、高校生を選んだということに性的な興味を覚える。

私はこの映画を観る前から「高校生って性的にめちゃくちゃ活発だし、未成年扱いにする必要あるのかな」と思っていたのですが、この映画ではフランの方に肩入れする・・・っていうのとも違うけど、フランを刑務所に入れたりカウンセリングをしたりすることがいかに意味がないか、って改めて納得した思いでした。

もちろん、本当にヤバい子供を守りたくなるような性犯罪者もいるのですが、法律はそっち基準に作られているけど、フランには当てはまらないように思うんですよね。

Frances Fergusonで検索しても1947年生まれの大学講師しか出てこないって書きましたが、この女性が法哲学も教えていたってウィキに書いてあって、法哲学とは「法に関して、その制定および運用や様ざまな人の法観念・法感覚、また、法現象とよばれる社会現象等に視点をあてて、哲学的に、平たく言えば、既存の諸概念にとらわれることなく考察する学問分野である」ってことなので、それでこの名前を使ったのかなあなんて思いました。

原案・監督のボブ・バイイントンは、どうもテキサス州オースティンで売れないインデペンデント映画ばっかり作っている、知る人ぞ知るフィルムメーカーみたいなので、この人のスタイルが好きな人にはすごい面白いんでしょうね。オースティンって近年すごいヒップなエリアになってきているみたいなので、ハリウッドに融合しない!系のアーティストが多いのかもしれません。

映画レビューを書いている人たちがやたらMillennial-ennui(ミレニアル世代の退屈)って言葉でフランのことを表現していて「ああ〜、これってミレニアル世代の人なんだ〜」って思ったんですけど、多分、この歳でこんなに世の中と切り離されていることが特徴とされているんだなって思いました。

私の感想としては、この世代の人ってなんでもあって結構恵まれているんだけど、だから退屈しているんじゃないかなと思いました。戦ってまで得たいものもないし、憧れて憧れて手に入らないものもない。またそうやって手に入れることが実は結構虚しいっていうのを、先人たちが証明してしまっている。結婚や恋愛ももう美化できないし、有名になるとか金持ちになることも虚構なんだな、って気づき始めている。

なのに法律は、容姿も恵まれて、結婚もしているフランがわざわざ高校生とセックスするのは頭がおかしいとか、悩みを解決してあげないとってカウンセリングとかするけど、なんかピンと来ない、と現代社会全体を考えさせられる映画でした。
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