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ホテルローヤルのmuraのレビュー・感想・評価

ホテルローヤル(2020年製作の映画)
4.4
廃墟のラブホテルでのヌード撮影っていう強烈シーンから始まる映画が、あれほどの素晴らしいラブシーンへと展開していくとは。いやぁ、これはいいなと。

舞台は釧路。今は廃墟となったラブホテル・ローヤル。しかし昔は活気もあり、多くのお客さんを迎え入れていた。映画はその頃を回想したもの。

ラブホテルを実家とする雅代は、美大を受験するも失敗、ホテルの仕事を手伝うことになる。ホテルは母が切り盛りしていたが、だらしない父を捨てて母は若い男とかけ落ち、ホテルのことは雅代に委ねられる。父はもともと妻を捨てて母と結婚したが、母はその父を捨てて男のもとへ。そういった経緯が雅代を頑にし、男との関係も閉ざす。それでもアダルトグッズの営業でホテルに出入りする宮川のことは気になっていて…

ラブホテルにかかわる人たちに悲劇がつきまとう。でも、どこか喜劇にもみえ、また救いものぞく。このラブホテルの雰囲気がそうさせるのか。つらい時にはひたすら仕事に向きあうといった姿勢もそれを感じさせて。

(以下、どうしても語りたくて内容に大きくふれる)

ホテルを閉じる日、ホテルはお客さんにとっては非日常でも私にとっては日常だったといい、雅代は最後に「非日常」を感じるべく大胆な行動をとる。そうして横になり、はじめて天井に目を向ける。これまでずっと床をきれいにすることばかり考えてきたといいながら。

雅代は宮川に思いを告げる。宮川は妻のことを思い、それに応えられない。そこで雅代が口にする言葉が、「ようやく胸が痛んだ。当事者になれた」…

いや、なんていいシーンなんだと!

ホテルには愛着もあるけれど、その扉を閉じることでまた新しい扉が開く。これまで下ばかり向いて生きてきた女が、ようやく上を向こうとする。

その雅代を演じるのは波瑠。波瑠は本当にいい役者だと思う。この「ラブシーン」も素晴らしかった。

でも欲をいえば、ヌードになる必要はないと思うが着衣の乱れぐらいはあってもいいんじゃないかと。かなり不自然 笑

そしてこの映画の魅力は、何といっても音楽。いい具合にBGMをとりそろえ、最後は柴田まゆみの「白いページの中に」。こういうのは、明らかに映画人のセンスによるなと。
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