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犬は歌わないのsashaiceのレビュー・感想・評価

犬は歌わない(2019年製作の映画)
3.7
偉業と暴力の狭間で、
ライカの先祖や彼らの魂は(つまり宇宙空間を耐え抜いた選ばれし強き血統の犬)はいまでもモスクワの街を徘徊しているかもしれない。60年以上前、野良犬が宇宙に打ち上がり、現在は宇宙犬が街を彷徨っているかもしれないという錯綜。なんと情緒的なんだろう、と思いきや次の瞬間一気に現実に引き戻される。これは想像以上に過酷なドキュメンタリーです。犬を宇宙に打ち上げるというソ連が国を挙げて挑む歴史的な偉業の瞬間でもあると同時に、それは実際にとても過酷で暴力的です。尻尾や体の一部を切断されて検査機でぐるぐる巻きにされ、服従する犬たち。犬好きにはちょいと辛い映像です。適応して生き残る犬もいれば、適応せずに死にゆく犬もいます。犬たちが見た宇宙はどんなだっただろうな。辛くて、痛くて、怖かっただろうか。まぁ人類の発展を散々優先してきた私たちがソ連の実験にどうこう言ったってきれいごとにしかならないのはわかります。

作中の不憫なワンコ見てるとロシアの寮に住んでたときに門の前に座り込みしてた目が血走った小汚い(誰も世話してないし、みんなから"病気持ちだ、近づくな"と言われていた)ワンコを思い出しました、触ったらやばそうだったので誰にも撫でられず、可愛がられず、避けられて、涙ぐましいくらい孤独なワンコでした。モスクワではなかったですがペテルブルクも同様野犬が多く、日本の野犬みたいに綺麗じゃなくて目が血走っていて、いかにも狂犬病を持ってそうな犬がその辺を歩いています。犬はロシアではあまり重宝されていない気がします。だってロシア人は無類のネコ好きだもの。猫のいない人生は人生じゃないって言うくらい。
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