あの(アンタッチャブルやスカーフェイスの話はしたいけど我慢…)アル・カポネの晩年を描いた作品…
晩年…彼はフロリダの広大な大邸宅で家族に囲まれて過ごしているが、梅毒が進み彼の身体と精神を蝕んでいる。
彼にはどうやら莫大な隠し財産があるらしくFBIは監視やスパイを使ってそれを探っている。
ひょっとすると彼の家族たちの目的もその財産かも知れず、すっかり痴呆が進んでいるように見えるカポネの病状も仮病なのでは?
…と、これがこの映画の粗筋だ。
トム・ハーディがいくら熱演したってどう考えてもつまらない映画じゃないか?
他の方のレビューを見てもどうやらそのようでこの低評価。
観はじめると大勢と孫たちと鬼ごっこで遊び感謝祭の晩餐を楽しむ食卓…脇には最愛の美しい妻メエが甲斐甲斐しく世話を焼く。
まんざら悪くない晩年にも見えるが梅毒に侵された彼の脳はまるで心霊現象のようにさまざまな幻影を見せる。
トム・ハーディの何か鬼気迫った演技がかろうじてこの映画を観続ける牽引力となる。
うわ!やっぱりつまらない映画かな?
と思いながらもこの映画の見方が固まっていく。
それは現実と彼の妄想(幻想)がリアルな映像として見せられていく為、観てるこちらは「これは現実、これは妄想」と区別(判別)しながら観ていくことになるわけです。
ところが話が進むにつれ、なんかおかしい…ということに気付き始める。
それは最初はちゃんと区別がついていた現実と妄想が怪しくなってくるのです。
「これはリアル」だと思っていた人物があるカットでまるで編集ミスのように消えてしまう!
おれは思わず「あ!」っと声を上げてしまいました。なんと現実だと思っていたある人物はカポネの妄想だったのか?
そうすると時を戻してさっき現実だと思って観ていたシーンが全て怪しくなってくるのではないか?
考えてみるとこの屋敷にいる大勢の人たちも突然現れたり突然姿を消している風に見えてくるのです。
妙に引き込まれる様にこの映画を観ているうちにラスト近く冒頭の感謝祭の晩餐のシーンがもう一度入るのですが…ここで違和感は頂点を迎えます!
映画を観終わった後、おれはこのつまらない映画をまた初めから繰り返し観たのです。
冒頭の感謝祭のシーンとラストの感謝祭のシーン…比べると同じシーンなのですが細部がいろいろ違うことに気づきます。
冒頭キツネ雨の中で鬼ごっこするカポネの姿はラストにはいない。食卓のカポネは服も表情も全然違う。
感謝祭に感謝することは?と問われた孫娘…
冒頭では分からないと答えてカポネの昔話を引きだすのだがラストでは「おじいちゃん(カポネ)に感謝します」と答えるのだ!
「どちらも嘘なのか!?」
おれは全身総毛立つような気分を味わいました。
この映画…ほぼ全て晩年のカポネの心象風景だけなのかもしれない。
おれは104分間、狂人の頭の中を見せられただけなのでは?
非常に印象に残るシーン…
家具も無くなってガランとした屋敷に呆けたようなカポネが座っていて周りを親族が取り囲んでいる。全員無表情で冷たい一枚の絵画のようなシーン。
リアルはこのシーンだけだったんじゃないか?
最後に現れる隠し子のトニー…あの美しいラストシーンも…
悲し過ぎるだろ?