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レモンとタンジェリンのmaiのレビュー・感想・評価

レモンとタンジェリン(2015年製作の映画)
3.1
これは…メッセージはすごく良いのに、もっとユーモラスにラストを爽やかに終わらせることは出来なかったのでしょうか?…じゃないと、もう終始イライラしっぱなしで疲れる映画になってました。

ユーモアがないし、キレ芸のあたりは「あ、ここがユーモアパートとして描かれてんのかな?」とも思いましたが、それでももっとユーモラスにして欲しかった!
とにかく意地悪な客が嫌で嫌でたまらないです。

日本ではあまり親しまれないですけど、アメリカなどの方では慈善事業や寄付ってかなり浸透してるらしいですね。
有名人が多額のお金を寄付したりっていうのも、もちろん善意としてのものだけど「金銭面的に裕福な人が富を分けるべき」的な考えは一般人にあって、ある種、自分の善意や厚意的なものを示すパフォーマンスとして定期的に慈善事業に関わっておかないと「あの人はちょっと…」と言われたりするみたいで…そういう文化への風刺のような気がしました。
また、今がコロナ禍のご時世にぴったりだなと思いました。

まずはタダ飯にありつく男性客。
彼の主張や行為自体は、道徳に反するかどうかを置いておけば咎められる内容ではないし、システム上そういうことも出来る。
彼を取り締まることはできないんです。
でも、誰しもが投げかけたくなりますよね、「無料にも出来るからって、お金かけて心込めて作られたものに対して無料を求めるのか?」と。そして、もっと嫌なことに男性客は他人のご飯も「奢ってやるよ(どうせタダにできるんだし)」と言い出すんです。
途中、彼の言い訳的な主張も語られますが、それも監督によるメッセージなのでしょう。
慈善事業を主催していない、その場に偶然いる人たちは参加するだけでその心を満たせるでしょうけど、主催者側の気持ちや痛みを理解しようとはなかなかしない。
そして更に悪いことに、その慈善事業にあぐらをかく「受け手側」は「俺も大変なんだ、俺だって、俺だって」と結局自分のことで終始する。感謝の「か」の字も出てこないんです。

そして店長である男性。
この慈善事業を施す側も皮肉混じりに描かれるのが良いです。笑
スタッフはやる気ないし、慈善事業だからって安く乗り切ろうとする客に対して「払って…じゃなくて寄付して」と言ってしまったりする。
…ここまではメッセージとして含めてないかもしれないけど、施す側にも傲慢な気持ちや、やってるって事実に満足してる現状があるのではないか?と問い質されてるような気分になりました。
店長の志は褒め称えられるべきです。
地元の食材を使って慈善事業。誰にでも真似できるものではないです。
でも彼も結局「店を作った」に満足してるんです。経営の苦しいシステム、家賃は滞納。他人に金銭面で迷惑かけてまでやってる寄付って一体なんなんだろう?と思えてきます。

無償ほど怖いものってないですね。
最初の女性客たちは自分たちの善意を試されてるような気になってしまうし、無償にできるからと他人の善意にあぐらをかく人もいて、自身の行う善意に満足しただけの人もいる。
最後、店長が信念を貫いていくのは誇るべき対応でもあるけど、同時に何の問題も解決してないし(小切手を持ってきてくれたとしても使えないなら意味ないし)、結局のところ「意地でも慈善事業を続けてくぞ」という態度への皮肉のようにも感じられました。

善意って難しいなぁと思いました。
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