SPNminaco

ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれからのSPNminacoのレビュー・感想・評価

-
賢いエリー・チョン、アメフト部ポール、2人が恋するアスター。ポールのためにラブレターを代筆するエリーは、アスターの心を掴む知的な「シラノ・ド・ベルジュラック」だ。手紙がエリー自身の思いだと2人は知らず、それぞれの素顔は隠されている。人気者グループに属するアスターは孤独な文化系少女、色々諦めて現実主義のエリーが実はロマンティスト、そしてボンクラなポールにも意外な一面があるのだ。そして3人とも、何かに囚われて行き場がなかった。
いつしか展開はシラノから「ピグマリオン」へシフトし、片思いのトライアングルがゆるやかに転調していく。アスターを知るための涙ぐましい努力によってエリーとポールはお互いを理解し合い、秘密の手紙やチャットは2人の閉じた世界を広げる。恋は一方通行「出口なし」でも、その線路はどこかへ繋がる。どこかにいるはずの自分の片割れを探す旅は、まだ見ぬ自分を探す旅へ。これが美しい友情の始まり…。
エリーの自転車、ポールのランニング、アスターとのドライブ。落ち着いた声が心地良いリア・ルイス、長身が目立つけど学校でも家でも「補欠」感なダニエル・ディーマー、寂しげな影を見せるアレクシス・レミールがとってもキュート。『カサブランカ』『フィラデルフィア物語』『街の灯』『ヒズ・ガール・フライデー』『ベルリン・天使の詩』、「日の名残り」…引用も全部さりげなく3人の関係とシンクロしている(冒頭のアニメは『ヘドウィグ』そっくりだったな)。旅立ちの空港は駅になり、列車を追いかけるあの場面へと。
悲しい時に涙は見せず、こんな瞬間に取っておく。それまで必死に言葉を尽くしたやり取りが、外国語や絵文字でストンと通じてしまう。「映画には山場がある」としつつ、繊細で複雑なバランスを壊さないよう丁寧に心憎いまでに抑制された演出演技だ。色んな意味での転調が美しく調和してる。
「地獄のような」田舎町の学園映画でありながら、とても穏やかでやさしい世界だった。ソーセージ・タコス食べながら、ずっと浸っていたくなる。
SPNminaco

SPNminaco