銀色のファクシミリ

ジオラマボーイ・パノラマガールの銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

3.7
『#ジオラマボーイ・パノラマガール』(2020/日)
劇場にて。原作未読なので、原作準拠だからなのか、瀬田なつき監督の演出で岡崎京子作品独特のエッジがマイルドになったからなのかは分からないのですが、未来に不安を感じながらも自分自身とその未来に期待を抱く明るさのある物語でした。

あらすじなしで感想。90年代を代表する漫画家、岡崎京子の作品は2018年には『#リバーズ・エッジ』、2019年にも『#チワワちゃん』が実写映画化されています。どちらも見通せない未来に不安を覚えながらも、何も変わらない何も変えられない日常の中で生きる若者たちの群像劇。

この『ジオラマボーイ・パノラマガール』は群像劇ではなく、男女二人の物語。そして90年代の空気をまとっていますが、そのままではない「あの頃」から30年経った現在、2020年の映画でした。

あの頃となにが違うといえば、日常は終わると皆が知った事。「ずっと同じ」という90年代の閉塞感は世の中から消えました。良くも悪くも。
でも若者の持つ未来への不安、短絡と刹那で生きて様々な経験をして変わっていくという物語は不変。スマホもSNSもほぼ登場しない不思議な「現在」ではありますが。

林立するビル群の底から見上げて、ジオラマ(構造物と背景)的に東京を感じる。街の快楽、遠くが見えない景色、都会の孤独。何者でもないただ一人の自分。彷徨える17歳のジオラマ・ボーイ。

同じ東京で、高層タワーに住みビル群の上に広がる大空も眺望(パノラマ)できる少女。不安以上に希望を持ち、多くの事を知らないまま街へ出ていく16歳のパノラマ・ガール。「変わりたい」という共通の想いを抱え、まだ伸びてもいないけど曲がってもいない二人の若者の二つの物語と二人の出会い。

終盤の「でもこれって」とつぶやかれたセリフに続く言葉はなんだったのか。観た方には「あれでしょ?」と分かる言葉ですが、あの言葉から二人が感じたのは、刹那ではない希望の予感だったと思うのです。そういう意味で「2020年にアップデートされた岡崎京子の世界」の映画だと思いました。感想オシマイ。