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ザ・ファイブ・ブラッズのblacknessfallのレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
3.6
ベトナム帰還兵の黒人4人の戦友達が約50年ぶりに戦中に埋蔵した金塊と仲間の遺体を探しに再びベトナムを訪れる。

道中のやり取りで4人のこれまでの人生が垣間見れる。
そこそこ成功した者もいれば、人生の敗北者になった者も。しかし4人とも戦争を機に人生が、価値観が激変したことは同じ。
国内でも戦地でも国は黒人に冷酷で差別だけして利用する。あの金塊で借りを倍にして返してもらう。
ここで興味深かったのは1人の帰還兵がトランプ支持者になってたこと、"Great America Make Again"のキャップ被る彼に、他の3人はどん引きする。3人の中の1人が「トランプの横でニヤニヤ笑ってた黒人はおまえかよw」とジョークを飛ばす。
ここで実際のトランプの支持者集会でニヤニヤしてる黒人が映る。
トランプは差別主義者でズルをしてベトナム戦争の兵役を逃れてるから黒人の帰還兵が支持する理由はなさそうなんだけど、実は黒人間にも分断があり差別問題や過去の徴兵拒否より、トランプが与えると約束した経済成長と一国繁栄主義に価値をおく黒人もいる。
現代の黒人間の分断がよく表れてるインパクトのあるシーン。


普通の映画なら人種差別やベトナム戦争の不条理をあくまで背景として見せたり、チラッと滲ますことで観てる側にさりげなく、映画的にスタイリッシュに提示して考えさせるように撮るんだけど、この映画の監督はスパイク・リーなんでそんな生ぬるいことはしない。
会話の内容の根拠になるフッテージをガンガン挿入してくる。
"アメリカ国内の黒人11%なのにベトナム兵の32%が黒人"だとするデータ映像。
「ベトコンは俺をニガーと呼ばない」「貧しく飢えに苦しむ有色人種に銃口を向けることはできない」有名なモハメッド・アリの徴兵拒否のステートメント等、いかにベトナム戦争でアメリカが黒人を利用したか、また黒人にとってベトナム戦争がいかに大義がない戦争かを有無を言わさぬ勢いで突きつけてくる。「四の五の言わせねえ、これ真実だ!」と相手の胸ぐらを掴んで怒鳴りかかるような演出は押しつけがましいものになりがちだけど、スパイク・リーはそのメッセージ性以上に確かな映像センスの持ち主なのでこの怒濤の説教を実に巧みに映画に溶け込ませている。

だから、そんな社会的意味に興味がなく観てる人にも問題を考えさせる効果を呼び起こす力があると感じる。
むさ苦しいまでの問題提起や現状への抗議と映画的な心地好さのある演出力の両立がスパイク・リーの最大の持ち味、それが今作も遺憾なく発揮されてた。

とは言え、若干のキツさがあった。黒人差別、黒人達にとってのベトナム戦争、そして黒人達の現状、さらにベトナム人から見たベトナム戦争、戦後のベトナム。ベトナム戦争よって翻弄された人達から多くの問題を浮上させる展開はあまりに高カロリー過ぎて思考がショートしそうになった笑
いくら洒脱でハイセンスな映像でもこれだけ大きくヘヴィな問題を全部熱く濃く激しく訴えられると胸焼けする。

それとメッセージのトーンが妙に教条的で退屈だし、"ブラック・クランズマン"にあった諧謔やユーモアが減退してたのも気になった。
良くなる兆しが一向に見えないどころかひどくなったようにも見える差別を前に不屈の男スパイク・リーも余裕を失い疲弊してるということなのか?

顧問弁護士のつもりで良さは最大限に強調し瑕疵に対してはあらゆるロジックを駆使し無効化せずにはいれないぐらいスパイク・リーが好きなおれでもこの映画は少しキツかった。
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