カツマ

ザ・ファイブ・ブラッズのカツマのレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
4.3
過去を無かったことにするなんて不可能だ。そこには死守されるべき未来がある、塗り替えられるべき歴史がある。その願いを、慟哭を、メッセージを、映画という媒体で発信してきた男、スパイク・リー。彼の叫びのような作品が今のこの瞬間、悲しみの歴史を循環させるアメリカを貫くために産み落とされた。再び立ち上がるために、非業の歴史が眠るあの土地へと、記憶はどこまでも立ち昇る。

スパイク・リーの魂が詰め込まれたこの作品は数々の大手スタジオから断られ続け、残されたNetflixに拾われる形でこうして世に出ることになった。だが、数奇な道筋を辿った本作が、このタイミングで生まれ出たのはもはや運命だったのではなかろうか。ジョージ・フロイト氏が警官に命を奪われたことで、元々息づいていた『BLACK LIVES MATTER』の活動は激しく表面化。黒人の命はもっと尊重されるべき、というその声明は今作とシンクロし、映画という形での活動を実現させた。スパイク・リーが伝えたかったこと、繋げたかった想いが迸る、魂の154分を刮目しながら目撃してほしい。

〜あらすじ〜

かつてベトナム戦争を共に戦ったポール、オーティス、エディ、メルヴィンの4人は長い年月を経て再びベトナムの地に戻ってきた。それはかつての仲間であり、戦場で命を落としたリーダー、ノーマンの遺骨を回収するためであり、加えて5人での作戦の最中に発見した秘密の金塊を掘り起こすためでもあった。4人で金塊の山分けすることが決まったすがら、ポールの息子デヴィッドが現れ、埋蔵金発掘の旅は5人での道程を余儀なくされる。
それでも旅は滞りなく進み、現地のガイドと別れ、5人はジャングルの中へと分け入った。だが、そこに残るのは未だ残るベトナム戦争の傷跡。5人にその負の遺産ともいうべき危険が迫ってきていて・・。

〜見どころと感想〜

序盤だけを見ていると、4人が戦友たちと戦争の名残りを巡りながら、過去に想いを馳せるような物語なのかと思っていた。だが、徐々に明らかになる戦争の生傷。それが精神的にも物質的にも爆散した時、この物語はただの宝探しの範疇を越え、決死のサバイバル、いや、時を越え再現される戦争の歴史の続きを垣間見せることとなる。この映画はヒリヒリと張り付くように悲痛であり、死に損ねた男たちが忘れ物を取りに行くような物語となっていた。

過去パートには『ブラック・パンサー』でお馴染みチャドウィック・ボーズマンが出演。しかし、彼は主演というわけではなく、実質的に主演級の演技を見せるのはポール役のデルロイ・リンドーだろう。戦争で受けた心の傷を癒すことができず、やがて狂気とのせめぎ合いに苛まれるという難しい役どころを鬼気迫る迫力で熱演。オスカークラスの演技だと絶賛の評価を受けている。

スパイク・リーは彼らしいというか、過去パートでも若手を起用せず、そのまま年齢を重ねた姿のままで撮っている。映像技術の費用が賄えなかったせいもあるらしく、それでも激しいアクションを見せてくれた4人のベテラン俳優とスタントマンたちには大きな拍手を送りたい。

再燃するBLACK LIVES MATTER、そして命を守るための声。今年を象徴する潮流でもあるこの大事を刻みつけるため、今作には劇場公開まで漕ぎ着け、大きなスクリーンでそのメッセージを放つという大役が残されている。そしてその暁として、来年のアカデミー賞で今作の名が見れることを願ってやまない。

〜あとがき〜

さすがはネトフリ、今作に尻込みした他の大手スタジオとは一線を画した自由さとアーティスト寄りのスタイルは変わらず。元々は白人が主人公だったという脚本を黒人目線に変更し、それを最終的には黒人の命の権利へと着地させる、という荒業はスパイク・リーにしか出来ない執念の賜物だろうと思います。

ベトナム戦争の傷跡。本土ではキング牧師が殺され、黒人たちの大義を見出すことすら難しかったという事実。その歴史を忘れさせんとすること。負の遺産を風化させないこと。それらが新たなる声に繋がる、ということを悲痛なメッセージと共に描き切った作品でした。
カツマ

カツマ