穂苅太郎

ザ・ファイブ・ブラッズの穂苅太郎のレビュー・感想・評価

ザ・ファイブ・ブラッズ(2020年製作の映画)
4.5
なんという映画だろう。映画の神様が確実にいるのだな。奇跡だ。
近い将来から振り返ってこの2020年という年はおそらくかなり歴史的な年になるはずだ。そんな歴史的な年にこんな映画が制作され発表される奇跡。

まずはチャドウィック・ボーズマン。なんという符合なのだろう。この役所にしてこの遺作。もうため息しか出ない。いや涙はいくらでも出たわけだが。

最も大事なファクターであるコロナ禍こそ描かれていないものの、今現在アメリカが、否、世界が抱えているあらゆる問題点を全て盛り込んで、ある時はパロディで笑わせ、ある時はよりシリアスにダイレクトに問題を提起し、躊躇なく実際の事件や映像画像楽曲を引用する。

そうしながらも登場人物一人一人の背景が手に取るようにわかる脚本と、これ以上ないキャスティングと、もはや神業に近い演出で、極上のエンターテイメントに仕上げている。
 
BLMもレイシズムも貧困格差問題も銃問題もオピオイド禍も、分断を誘うことに神経質なほど慎重になっているのはスパイク・リー監督の絶対平和主義がこの作品でも強く主張されている。アカデミー賞の授賞式ではいつでも過激なおじさんなのに。誰よりも人間への愛情に溢れ、憎悪や分断をその作品では本当に慎重に排除しているのだ。

本来当事者であるはずのアフリカ系アメリカ人が、ベトナム人に対する差別感情もあらわにしていたり、貧困への嫌悪を隠そうともしない。これが本当に現実なのだろう。完璧な聖人などいないのだ。完全な悪人がいないように。

おまけにジャンレノだ。帽子をかぶるまで気が付かなかった。だってジャン・レノだもの。それがひとたび帽子をかぶるや、世界中の誰もが分かるそっくりさんになった。この映画の裏のどんでん返し。

とにかく今年だ今年観なければ後悔する。それも大統領選挙前までだ。
穂苅太郎

穂苅太郎