ヨーク

アオラレのヨークのレビュー・感想・評価

アオラレ(2020年製作の映画)
3.7
いやぁこれは面白かったな。最近観た映画の中ではかなりストレートに面白かったなー、と言える作品だったと思う。そのわりにはスコア大して高くないじゃんというところなのだが、まぁぶっちゃけB級映画だし心に強く残るような何かがあるかというと、どうだろうなという感じではあるのでそんなもんじゃないっすかね。しかしだ、基本ロクでもないB級映画なのは間違いないのだが根底にはわりと真面目なテーマが潜んでいる映画だとも思う。
お話は本当にアホみたいな展開なのだが夫と離婚調停中のレイチェルは何をやっても上手くいかなくて日々イラついていた。そんなある日息子を学校まで送る途中にノロノロしていた前の車にデカいクラクションをかましてやったらそれが殺人を犯したばかりで世の中の全てがどうでもよくなっていたラッセル・クロウで、レイチェルの態度にムカついたラッセル・クロウは地獄の果てまでレイチェルを追いかけてくるのだった、というお話。
そんなお話に割と真面目なテーマが潜んでいるのかよ? と思われるかもしれないが実はラッセル・クロウも前妻との離婚で揉めていて犯した殺人というのも前妻とその新しい夫なんですよね。要するに本作はアオリ・アオラレのカーチェイスものであり、頭おかしい殺人鬼のラッセル・クロウが主人公レイチェルを追い詰めていくスリラーでもありながらも基調というか根底にあるのはその二人の疑似的な離婚劇なんですよ。ラッセル・クロウは無礼なクラクションを鳴らしたレイチェルから偏執的なまでに心からの謝罪を引き出そうとするんだけどそれは自分がかつての妻(多分ラッセル・クロウが捨てられた形なのだろう)から謝罪を引き出す前に殺しちゃったことがあるからレイチェルをその代わりに見立てているんですよね。そしてレイチェルもまた暴力的に迫って来て自分の人生を破壊しようとするラッセル・クロウに離婚調停中の夫の姿を重ねているので絶対に死んでも謝罪などする気はない。そういうディスコミュニケーションの映画ですよ、本作は。
つまりお互いに譲り合う気のないカーチェイスを離婚劇に見立てているわけで、まぁそれはそれでアホみたいな発想ではあるのだが実にB級映画的で面白いなぁとも思う。クソ真面目に真正面から離婚劇を描き切った『マリッジ・ストーリー』がまるでバカみたいだ。いや、バカみたいな映画は間違いなく本作の方なのだが。でもその辺を意識しながらレイチェルとラッセル・クロウのやり取りを見ていたら中々興味深いところはありますよ。俺は結婚生活したことないからよく分からないですけどよく言うじゃないですか、目玉焼きの黄身の硬さで喧嘩したりバスタオルを洗濯する頻度で言い争いになったりだとか。それってクラクションの鳴らし方と同じくらい些細なことではあると思うんだけど、そういうことが積もり積もるといつかお互いの不満が爆発して憎しみあったりしちゃうようになるんだろうな、とも思うんですよね。
本作は基本バカみたいな映画だけどその辺が意外と地に足ついてるというか、少しでも寛容になることができれば回避できたことなのになって感じで皮肉が効いてると思うんですよ。
でも表面上はとても愉快な映画で思ってたよりもバカみたいに人が死ぬし良かったですねぇ。ハッキリ言って脚本というか展開とかガバガバだなと思うところは多々あるがまぁそこはいいだろう。緻密な展開を楽しむような作品でもないだろうし。
あとラッセル・クロウの存在感はやっぱ凄かったですね。過去の事件があるからというわけではないがあの体躯と不遜な表情は威圧感アリアリでよかったです。女性が言う「体の大きい男の人が近くにいるだけで怖い」というやや理不尽なクレームじゃねぇかなと思うことも、あの風体のラッセル・クロウみたいな人がジロジロこっちを見ていたら確かにちょっと怖いよな、と思ってしまうのでありました。
大傑作とか言う気はさらさらないが最後まで飽きずに観れたし面白かったです。
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