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アオラレのmaverickのレビュー・感想・評価

アオラレ(2020年製作の映画)
4.0
2020年のアメリカ映画。あおり運転で相手を追い詰めるサイコ男をラッセル・クロウが演じるスリラー映画。


スピルバーグの『激突!』みたいな話だと思ったらちょっと違った。ラッセル・クロウ演じるあおり運転の男はただのサイコ野郎ではなく、そこに至った経緯を感じさせる人物として描かれていた。あおり運転などの感情を抑制出来ない人が増えている理由についても触れられている。社会に問題があり、そのことに起因しているのだと。他人事でなく考えさせられる話でもある。

あおり運転の男が悪いのは当たり前なのだが、けたたまくしくクラクションを鳴らした女性も良くない。これが原因で男の執拗な攻撃が始まってしまう。クラクションを勢いよく鳴らした女性も、物事が上手くいかずにイラついていた。心の余裕がなかったのである。現代社会が病んでいると感じるのはこういう部分。人々に心の余裕がない。本作は描き方が思いっきり過剰だが、あり得ないとも言えない話だ。実際このような事件は現実に起きている。人生に絶望した者が周りを巻き込む凶行。何も失う物のない、いわゆる無敵の人が起こす事件である。世の人々が常に心に余裕があり、穏やかな人生を送れていればこのような事件は起こらない。本作は不安定な社会が引き起こす悲劇を表した物語なのだ。

ラッセル・クロウの熱演が光る。演技派の彼だからこその深みのある表現。ただ追いかけるだけにしても、その執拗さに狂気を何倍も感じた。もはや道理などなく、この女を自分の道連れにしてやろうという執念が凄まじい。話題性だけの起用だと思っていたけど、本編を観て納得。普通の男が人生に絶望した果ての姿をリアルに感じさせてぞっとする。この男の凶行をあり得ないとは言えない。自分も一歩間違えばこうなってしまうかもしれないのだ。虫の居所が悪くてついかっとなり、車だからと気が大きくなって攻撃的な行動を取る。そしてそれが悲劇を起こす。世の中のあおり運転による悲劇的な事件はこういうものばかり。加害者の心情も、こうして見ればその行動性も分かる(分かると言っても同情はしないが)。そうした一見理解不能な行動を、分かるように表現したラッセル・クロウの演技は見事なものであった。貫禄も十分すぎるほどだったけど、あの太り様は役作りだよね??

あおり運転で追跡されるカーチェイスシーンも迫力十分。やり過ぎなくらい誇張した演出がハラハラさせる。警察が無能すぎるのが解せないが、予測不能な突発的な凶行には対処出来なくて当然なのかもしれない。本作を単なるフィクションとせず、危機対処の参考にでもしてほしい。アメリカだけでなく、日本だって起こり得る話だと思うから。


ストーリー的にはB級映画なんだけど、ラッセル・クロウの熱演で一級品のスリラー映画のレベルにまで引き上げられている。社会問題を取り入れた部分も良かった。心に余裕を持てるそんな社会が求められるが、それは自分の日々の行い次第でも変えられる。自ら災いを呼び込まないように、心穏やかにいられるように努めよう。
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