幽斎

シークレット・ランナーの幽斎のレビュー・感想・評価

シークレット・ランナー(2020年製作の映画)
3.4
スリラー作品で傑作が目立つプロダクツは、プラムハウスとA24。一方で私の生涯1位作品「SAW」を生み出した独立系の小さな会社Lions Gateは、ハロウィンに合わせてSAWシリーズを「毎年」リリースする離れ業を見せた。SAW-1の製作費は1憶円、世界興収は110億円のメガヒット。今はインデペンデントの覇者として君臨する。

その後も「クラッシュ」オスカー作品賞、「アドレナリン」「エクスペンダブルズ」「キック・アス」「ハンガー・ゲーム」「トワイライト・サーガ」誰もが知るバジェットを手掛ける。しかし、2016年から企業買収に依る肥大化を受け社内で権力闘争が勃発、立て直す為に中興の祖Joe Drake会長が現場に復帰してレビュー済「ジョン・ウィック パラベラム」「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」をリリースして軌道修正に成功。

長々説明をしたのは、あのLions Gateでも最近はハズレが多い。これを言いたかった"笑"。Huluをパートナーに選んだ為、リリース・サイクルも早い。配信専門は予算に縛りが有り、脚本の時間的制約も多く、結果的にドボンする作品も多い。アマゾン・プライムやNetflixも以下同文。問題は配信で評価を得ても監督や脚本家、出演者のキャリアアップに繋がらない点。本作も「何でこんな企画が通ったんだろう?」と思う出来栄え。ライオンズゲートの審査を擦り抜けた主犯はJonathan Gardner。彼はレビュー済、オカルト・スリラーの最高峰「ヘレディタリー 継承」を製作総指揮した人物。

ヘレディタリーを作った人?だったら本作も面白い、と思うだろうがソレは違うので解説すると、生みの親Ari Aster監督は新人で、いきなり10億円の映画を作れる訳も無く、メジャーに相手にされない。しかし、彼の才能を逸早く見抜いたのが、作品にも出演した名優Gabriel Byrne。スクリプトを気に入った彼は伝手で新興勢力A24に売り込む。Byrneの紹介なら無下に断る事も出来ず、送られた原案を見た「ジョン・ウイック」プロデューサーKevin Frakesは速攻で製作を決め、トントン拍子で完成した。Jonathan Gardnerは実際は資金管理をした1人に過ぎない。

そのJonathan Gardnerが、予てからSamara Weavingに御執心で、主役そっちのけで勝手にキャスティングが進められた。ジャンルとしてはクライム・スリラーだが、プロット的に「自分と瓜2つの女」だけでは彼女の出番が少ないので「実は死んだかも」と整合性の無いファクターを加えた事で空中分解。Colin Krisel、James Krisel兄弟監督のオリジナル脚本だが、恐らく製作会社Metalwork に脚本を出した段階では、もっと良かったと思われる節も伺える。出来の悪さから国際版ではLions Gateのクレジットすら外された。

プロットは歪な四角形を連想させる人間関係だが、後半はスリラーの雛型に沿ってスムーズに物語が展開し、伏線の回収や真相の暴き方も丁寧。オチの落とし処も納得出来るし、サスペンスの構築も悪くない。前半がダルい理由はプロデューサーの不当介入に尽きる。本来の主役Zach Averyの出番を削ってクレジット4番手のWeaving推しは如何なモノかと。彼女は「ザ・ベビーシッター」で多くのファンを獲得したが、見た目とは裏腹にレビュー済「スリー・ビルボード」の高い演技力が絶賛された気鋭の女優。彼女には何の罪も無いが製作陣が横ヤリしなければ、もっと面白いスリラーが作れた筈である。

Lions Gate配給と言う事でBrian Cox、Udo Kierと言うネーム・バリューの有る名脇役が揃いながら、結果的には時間の無駄と言う程悪く無いが、良作とは決して言えない。前半が急拵えの脚本の為にテンポも歯切れも悪い。すんなり進む後半へと、こじつけで伏線をリンクさせるので観客も混乱するだけ。映画後進国なら、コレで充分かもしれないが、京都の引き上げ湯葉の様な、アッサリした味付けに、思わず一味唐辛子でも入れたく為る。京都の一味唐辛子は隠れたお薦めです、お土産に是非"笑"。

仕入れたアルバトロスもLions Gateにハズレ無しと買い付けたが、邦題には苦労した跡が伺える"笑"。原題「Last Moment of Clarity」CLARITYは「明確」と言う意味だが、編集をフラッシュバックで誤魔化したので、90分でも長く感じる。Weavingのエロいシーンを期待するのは当然だが、それを製作陣が脚本を改編してまで撮影するのは筋違い、と言うか職権乱用のエロ爺。折角の長編デビュー作の兄弟監督が私には不憫に思えた。感想を一言で言えばGood concept, but bad lead.

本作の様な作品をアメリカでは「Lackluster」光沢の無い映画と言う。Samara Weavingが観たい方のみ直球でお薦めしたい。
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