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ヤクザと家族 The Familyのおてつのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.4
 身寄りなき男を拾った義理人情溢れる組長との父子の契り。しかし、異質を撥ねる世間の潮流に淘汰されゆく“家族”の繋がりと一人間としての権利。古き良き時代と新しく得たものの心地よさ、褪せる輝き、それでも忘れ得ぬもの。終盤にかけ、堰を切ったように流れる涙、沁み入るEDの余韻…大傑作。

 この物語は、ヤクザという生き方を選んだ男の、3つの時代にわたる叙事詩的ストーリーである。覚醒剤に溺れ、金を使い果たしたことで自殺した父、そして母も兄弟もおらず天涯孤独になってしまった主人公の男は自暴自棄になるが、ある時、地元のヤクザの親分から手を差し伸べてもらったことで父子の契りを交わす。時は移り、ヤクザとして闊歩する男は愛する人が出来るが、社会のヤクザに対する扱いが徐々に一変していき…

 この映画には“普通に生きたかった”という主人公の悲痛な思いが込められていたような気がした。孤独な主人公の男、血縁関係のないヤクザとの擬似家族的契約。ヤクザが失ったものを互いに埋め合い、時にヤクザであるが故に本当に大切なものを失うという無情さ。1999年、2005年、2019年と時代が移るごとに変わっていく街並み、人々、法、社会、体制。集団が個人を分断、押し潰し、差別を促していく。本当ならばマイノリティ的存在にも寄り添うべき政治が機能しないという名状し難い皮肉。そして現代を生きる我々含め、ヤクザという異質なものに対して「反社」という大きな一括りの色眼鏡で見てしまう。そんな世知辛い世の中を必死に生きる主人公の姿というのは移ろう時間の潮流の中でたったひとり変わらない信念を持っているように見えた。是非を言わず、社会の不条理に抗い、愛を貫き通す男の哀愁に今まで耐えていた涙が堰を切ったように流れ始める。そして、最後の選択…。”普通に生きたかった”男は、未来ある若者のために、生きる道を託す。
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