J

ヤクザと家族 The FamilyのJのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.0
ヤクザ映画なのに共感を求めてくる。


正直、観ている最中の作品に対する評価はあまり良く無かった。

もちろん俳優陣の演技力は申し分ない。

しかし、キャラクターが悪いのか、もしくは演出が悪いのか、作品全体がどうも古めかしく感じた。素晴らしい俳優陣の演技すらも、だ。

何故だろうか。観ているときには理由は分からなかったが、どこか受け付けない自分がいた。



この物語は三世代の人たちが絡んでいる。

1つ目が今でいう団塊世代と呼ばれる人たち。
舘ひろし演じる柴咲組の組長がコレに当たる。

2つ目にロスジェネと呼ばれる人たち。
綾野剛演じるケン坊がコレだろう。

3つ目がミレニアル、Z世代と呼ばれる人たち。
ここはネタバレになるのでキャラクターは伏せるが、ちょうど今の高校生・大学生くらいだろう。

基本的にはケン坊中心に物語は進んでいくのだが、時代背景は1999年から始まり2020年現在にかけてそれぞれの世代の"雰囲気""空気""ノリ"のようなものを記している。


なんとなくここまで整理すると受け付けない理由が分かってきた。

1つ目に、時代のギャップ。
別に過去の物語を描く分には全然問題ない。だが、本作では違う世代の人間が入り混じるフェーズがある。そこで生じるギャップが違和感を生み出し、主要キャラクターですら浮いて見える。しかもヤクザとなれば尚更その摩擦は大きい。過去のエッセンスを現代に混ぜてしまえば、それはもう"古き良き"ではなく"時代遅れ"なのだ。

2つ目に、共感を求めてくる。
過去と現代を混ぜるだけならまだいい。温故知新という言葉があるように映画も過去の歴史から学びを得て進化していく。
だが、本作では"過去"の"ヤクザ"が"共感"を求めてくるのだ。本作はヤクザ映画でありながらヤクザ映画ではなく、家族の物語、絆の物語、もっと偏見を加えれば"学生が上京して七転八起"的なノリの、観客の目線を合わせようとしてくるタイプの作品なのだ。ヤクザのクセに、と正直思った。
おそらくこのノリに身体が拒否反応を起こしていたのだと思う。


…と、ここまで散々と愚痴を垂れてきたが、映画観賞後に改めてこの作品を振り返ると、自分の中の評価が大きく変わっていることに気がついた。

たぶん、監督が観客に抱いて欲しかったのはまさに僕が上記で述べたような感情なのではないだろうか、と。

暴力、犯罪、抗争。人生に間違いなど無いとは言え、世間的には道を外れて極道を生きてきた男たち。しかし、時代は過ぎ世間の目も冷たくなり、ヤクザは二度と昔のように幅を利かせて歩くことはできなくなった。決して擁護はしないが哀れだとは思う。
しかしながら、そんな彼らが自分の幸せを主張し、その苦痛に共感を求めようとするものなら、きっと僕が抱いた感情は間違いではないだろう。

そして、僕がいま抱いている感情を世間から向けられていると思うと、やはり哀れとしか言いようがない。

時代と道をはみ出した者たちへの違和感や嫌悪感。
そして、そのマイナスな気持ちを通じて感じる彼らへの憐れみ。

これをこの作品が伝えようとしていたのなら、僕は完全にこの作品にやられたとい言い切れる。


p.s. 舘ひろしの声だけASMRかっていうくらい響きがいいのは何故か。
J