覚醒剤のトラブルで、たった一人の家族である父親を亡くした賢治は、自暴自棄な生活を送っていた。ある日、行きつけの焼肉屋で、ヤクザの柴咲組の組長を小競り合いから助けた賢治は、組長の博から名刺をもらう。父親を破滅させた覚醒剤を嫌悪する賢治は、売人から覚醒剤を奪い、海に捨てるが、売人のバックについてたヤクザに捕らえられ、香港に売り飛ばされそうになるが、持っていた柴咲博の名刺のおかげで救われる。以後、賢治は博と親子の契りを交わし、柴咲組の一員となる。
ヤクザになった賢治の20年間を追った物語。監督、脚本は「新聞記者」の藤井道人。
ヤクザ映画はそんなにたくさん見てないけど、よくあるヤクザ映画としての物語に加えて、令和の時代になって、生きる為の権利すら法で規制されている、今の時代のヤクザの実態を描いた作品。「孤狼の血」みたいな暑苦しさはそこまでなく、「アウトレイジ」のような計算された滑稽さもなく、真面目かつ誠実にヤクザの世界を描いたという印象。暑苦しさの代わりに、氷のような冷たい緊張感が感じられた。前半部分のテンポ感がやや遅く感じたのと、賢治と由香のラブストーリーがリアリティさに欠ける感あり、惜しい部分はあったけど、見応えのあるドラマだったと思った。
賢治を演じた綾野剛は、堂々たる主演ぶり。空虚感を携えた瞳の表情はさすがという感じで、老けた感は否めないけど、20年の月日を違和感なく演じていたし、賢治になりきっていた。ヤクザの組長を演じた舘ひろしは、包容力のある組長。立ち姿は組長として説得力あり。賢治の弟分の細野を演じた市原隼人は、「おいしい給食」での名演も印象的だったけど、ヤクザの時と堅気の時のたたずまいが全然違って、その演じ分けに感心。組の若頭の中村を演じた北村有起哉も、好きな俳優。何考えているかわからない中に、生真面目さが見え隠れする役で、憎めなかった。焼肉屋の店主の息子で、幼い頃から賢治に可愛がられる翼を演じていたのは、磯村勇斗。「きのう何食べた?」のジルベールが、物語の後半のキーマンとなる翼を見事に演じていた。若者特有の軽やかさがあり。ある場面での彼の泣き笑いの表情には、グッときてしまった。賢治と恋に落ちる由香を演じたのは尾野真千子。私はこの人が苦手なので、できれば違う女優で見たかったかも。
本物のヤクザをあまり見たことはないから、俳優達の演技がどれほどリアルなのかはわからないけど、よくあるヤクザのイメージ通りではあったと思う。悪い人だけどカッコ良いのままでは終わらず、ヤクザの哀れな顛末とか、今の時代の目で切りとっているところがなかなかだと思った。血のつながりはないけど、家族というキーワードで繋がる彼らが、家族のために自らの全てを投げうって戦うその姿に、家族を思う熱い気持ちがあることが伝わった。
エンディングテーマ曲を手がけたのはmillennium parade。
曲の歌詞と賢治の心情があまりにリンクしていて、切なかった。作品の余韻に浸るにはピッタリだったと思う。
関係ないけど、数年前に消化器内科に勤務していた時に、入院していた、ヤクザの組長さん。普段は温厚でダンディで大好きだったなぁ。舘ひろしの組長は彼にちょっと似てたかも。もう亡くなってしまったけど、忘れられない。