てっぺい

ヤクザと家族 The Familyのてっぺいのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.0
【綾野剛を愛でる映画】
家族とは何か。1人の男の人生を軸に、様々な家族の形が描かれ、見終わってみれば心にずっしり残る重厚感。緻密な脚本力も光り、綾野剛の多彩な演技力を愛でる意味でも見応えのある一本。
◆概要
監督・脚本:「新聞記者」藤井道人
出演:綾野剛、舘ひろし
◆ストーリー
柴咲組組長・柴崎博の危機を救った山本は、柴崎と父子の契りを結ぶ。山本は、さまざまな出会いと別れの中で、自分の「家族」「ファミリー」を守るためにある決断をする。14年の出所を終えた山本が直面したのは、暴対法の影響でかつての隆盛の影もなくなった柴咲組の姿だった。
◆トリビア
○ 本作は、2019年の第43回日本アカデミー賞で作品賞・最優秀主演男優賞・最優秀主演女優賞に輝いた「新聞記者」の藤井道人監督と、配給会社スターサンズが再びタッグを組んだ作品。(https://eiga.com/movie/93189/special/)
○ 主題歌を書き下ろしたmillennium parade(King Gnu常田大希による音楽プロジェクト)は、綾野剛によるオファー。(https://yakuzatokazoku.com/)
○ 2021年1月29日に劇場公開、約4ヶ月後の5月7日よりNetflixで独占配信された(※海外での配信開始は6月以降を予定)。(https://www.oricon.co.jp/news/2192328/full/)

◆以下ネタバレレビュー

◆家族
ヤクザとしての家族。実の父という家族。賢治と由香との間にできた家族。竜太(市原隼人)にできた家族や、木村家も含め、本作で描かれる様々な家族。そのどれもが、絆で結ばれ、失う時に深い悲しみや喪失感を伴う。ヤクザという暴力性をフックに、その喪失感が復讐心に変わり、賢治の人生が翻弄されていく様が強く描かれていたと思う。逆にその暴力性を起点に賢治自身が家族を失っていく訳で、一方で絆を深めていく家族の形と、もろく崩れていく対照的な家族の形。まさに“ヤクザと家族”という2つの要素が絶妙に絡み合い、見応えのある映画になっていたと思う。
◆脚本
賢治が川山(駿河太郎)を撃つ一歩手前で手をかける中村(北村有起哉)。翼の襲撃前に殴り込んだ賢治。そんな意外性のある展開が随所にあった。冒頭の水の中のシーンという伏線が回収されるラストも含め、教科書のような見事にひねられた脚本で、終始シンプルに惹きつけられる映画だった。
◆映画表現
要所に出てくる煙突の煙。荒々しく生きるチンピラの賢治の時にはモクモクと激しい煙が街の一角で立ち上がり、由香に娘がいる事を告げられる、つまり家族がいる事を賢治が知るシーンの景色の先には煙の止まった煙突が。由香が職を追われ、賢治が家族を失う事になる箇所にはどこか弱々しく流れる煙の映像が差し込まれていた。賢治の生き様や精神状態に呼応するかのような煙は、活発な産業の象徴でもあり逆に時代に沿って衰退していくもので、本作で描かれるヤクザの栄枯盛衰にも見える、縦軸としてのアイコンだったと思う。
◆綾野剛
冒頭の荒々しいチンピラ時代から、ヤクザになり男気に溢れる凛々しさ。さらに出所後の少し穏やかな賢治をそれぞれ見事に演じ分けていたし、由香と出会った時の少しコミカルなやり取りもクス笑いできる。加えて、チンピラ時代に加藤の一派に追い詰められるシーンでは普通に彼自身が車に轢かれていた。綾野剛を愛でるという言い方が正しいかは置いといて、彼の役者としての魅力が存分に味わえる一本でもあると思った。
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