Inagaquilala

あのこは貴族のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.1
山内マリコは、映画化に恵まれている小説家だ。デビュー10年余りで、この作品を入れて映画化作品が3本。しかも、過去2作の「アズミ・ハルコは行方不明」(松居大悟監督、2016年)も「ここは退屈迎えに来て」(廣木隆一監督、2018年)も、なかなかクオリティの高い作品に仕上がっていたと思う。特に前者には「スプリング・ブレイカーズ」(ハーモニー・コリン監督、2012年)に言及するシーンがあり、多少インスパイアーされたと思わせる秀作だ。

この作品の監督は「グッド・ストライプス」(2015年)の岨手由貴子(そで・ゆきこ)。山内作品としては、初めての女性監督を迎えての映画化だった。前作の「ここは退屈迎えに来て」にも出演していた門脇麦が東京の高級住宅街・松濤に住む無垢な令嬢役を、対照的に富山県の田舎出身(山内と同じ)で、経済的困窮から大学を中退して働く女性を水原稀子が演じている。東京に暮らしながら、まったく住む世界が異なる2人の女性の暮らしを別々に描きながら、ひょんな接点から邂逅し、それぞれの新たな生き方を見出す姿を描いている。それは「格差」と言っても良いのだろうが、岨手監督はことさら東京という街の風景を映しながら、この場所が持つ意味なども紡ぎ出そうとしている。

結婚を控えた男女の微妙な心の動きを見事に描いた「グッド・ストライプス」と同じく、脚本も岨手監督自身が執筆しているが、原作をリスペクトしながらも、巧みな構成で自らの作品として仕上げている。日本でも優秀な女性監督がこのところ数多く現れているが、彼女もその1人であることを認識した。ちょっと不良な味わいもある水原希子の演技が素晴らしい。門脇麦扮する令嬢が物語の主人公ではあるのだが、観賞者の視線はどうしてもリアルに映る水原の演技に注がれてしまうかもしれない。いずれにしろ、山内マリコの小説を原作とした映画では、これがベストな作品であることには間違いはない。
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