ラウぺ

あのこは貴族のラウぺのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
3.9
2016年の正月、榛原華子(門脇麦)は開業医をしている家族の新年の会食に遅れて到着する。一緒に来るはずだった婚約者と婚約を解消してきたと聞いて驚く家族。東京で何不自由なく暮らしてきた華子は結婚こそが幸せに直結すると信じ、慌てて婚活を開始する。そうこうするうち弁護士の青木幸一郎(高良健吾)と出会い、やがて婚約に至る。一方富山から出てきて慶応大学に入るも中退しIT企業で働く時岡美紀(水原希子)は学生時代に幸一郎と同期だった・・・

セレブの箱入り娘として育った華子と学費が払えなくて大学を中退した美紀。二人の間にある大きな階級格差を大きなコントラストとして見せ、華子よりも更に上を行く上級国民の幸一郎を登場させることで、それぞれの階級の違いを比較してみせる物語はさもありなんというイメージ通りのエピソードを重ねることで興味深く楽しむことができます。
とはいえ、この作品は階級格差をテーマとしているのではなくて、温室育ちで世間の荒波を知らずに育ったお嬢様が初めて体験する人生の大波を経て成長していく物語。
庶民の代表として登場する美紀も華子の人生を転換する触媒としての役割であり、華子の友人として登場するヴァイオリニストの相良逸子(石橋静河)も物語を動かすプレーヤーとしての役割、主役はあくまで華子なのだという筋立てになっています。

個性のはっきりした女性たちが登場する群像劇ではありますが、華子を主役に絞ったことで、物語にメリハリがつき、筋立てがすっきりしたものとなっていることは確かでしょう。
女性の社会的立場や自分の内面(=役割)から女性が自分の人生を枠に嵌めてしまいがちな状況を転換する、というテーマは大変分かりやすいのですが、どちらかというと、この作品はアート系の、眉間にシワを寄せてテーマと向き合うような作品ではなくて、物語はシンプルで危なっかしい展開などは皆無、ある意味で予定調和な落としどころに落ち着くエンディングも含めて、気楽に楽しむ一種のシチュエーションドラマとして、エンタメとして楽しむのが正しい鑑賞法ではないか、と思うのでした。

とはいえ、決して安直に作られたような印象はなく、『止められるか、俺たちを』で泥くさい若松組の助監督役だった門脇麦が世間ずれしていないセレブのお嬢様に扮し、これがまたいかにもそれらしいところや、『ばるぼら』や『人数の町』などで個性の光る存在の石橋静河、ちょっと漫画的ともいえる上級国民っぽさ全開の高良健吾、出番はそれほど多くないものの、圧倒的な存在感の石橋けいなど、個性的な俳優の演技や雰囲気を楽しみつつ、気の利いたセリフに頷きつつ最後まで観る事ができる、なかなかの佳作だと思います。

「良い映画だったね」ではなく、「面白かった」と言える感想が、別の見方をすれば、もう少し格調高く、多層的なテーマが折り重なる重厚なつくりであれば、作品がもう一段高評価になるのではないかな、という気もするのでした。

あえて一点苦言を呈するならば、石橋静河がヴァイオリンを弾く場面が2度も出てきますが、音楽と演技がまったく同期していない。
ヴァイオリンを弾く演技が難しいのなら、全身のアップは避けるか代役を使うべきところ。
俳優の問題ではなく、演出・監督の問題と考えます。
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