Aya

あのこは貴族のAyaのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
3.9
#twcn

映画内で"女性の生き方"をここまで高めて表現した手腕に涙が止まらない。

現実はまだここまで追い付いてはいないけど。

キッズリターン以来の2ケツ🚲がクラシックになるのでは?!

土地、家柄、親、経済力、学校、仕事。

育ってきた環境の全く違う2人が同じ男を介して知り合う女性4人の生き方の決断の話。

箱入り娘は名家の跡取り高良健吾くんに一目惚れし、順調に関係を育み婚約するが、高良健吾には水原希子という大学の同級生のセフレがいた。

ただのセフレに留まらず、親に頼らず東京で生きてきた水原希子は社交的でコネもあり、PRの仕事をしているいわゆるバリキャリなので高良外交に参加するようなwin winの関係だ。

水原希子は高良健吾が婚約したことを知らず関係を続けていた。

門脇麦は水原希子の存在を知っていたが、敢えて触れることはなかった。

2人を引き合わせたのは、門脇麦の幼なじみのバイオリニスト。
同じように箱入りで育てられたが、単身ドイツに渡ったプロのバイオリニストの石橋静河。

彼女は同じ同級生たちとは違い自立したいと結婚を視野に入れず自分の仕事に打ち込んでいた。

偶然「友人の婚約者の浮気相手」の水原希子に出会ったが「友人の婚約者のセフレ」を責めることはしない。

彼女が口を出すことではないし、1人の大した愛のない男のために我々周りの女たちが争ったり憎み合う意味があるのか?と問う。

まずここが素晴らしいですよね!!
この視点!
当たり前なのに5億点!

ピッタリの人を見つけるのが1番難しいように、フラットな考え方をしながら実行するのが1番難しいだろうに!

そこで周りに言われるまま続けたお見合いの中で、一目惚れでよく知らずに決めた門脇麦を呼び出しお互いに対面させる。

水原希子は自分の役割を心得ており、すぐに手を引く。
門脇麦も自分の役割を心得ており、すぐに嫁に行く。

お互い高良健吾との関係が悪いわけではない。
善良ではないが悪い男ではない。

高良健吾と距離を置いた水原希子は別にそんなに気にすることもなく、仕事に打ち込み大学以来久々に再会した地元の友人の山下リオの起業したい!という夢を叶えるために寄り添う。

高良健吾と一緒に暮らし、高良健吾の家の風習を学び嫁として気に入られ迎え入れられ教育される。

仕事はせず家事や家の用事を担い、一見優雅な専業主婦ライフに見えるが、子供という名の"跡取り"を産むことばかりを考えざるを得ないプレッシャーにうんざりすることも。

なんと言ってもせっかく結婚した高良健吾が心を開いてくれない。
大切な事を話してくれない。
頼ってくれない。

わかってはいたがこれは結婚ではなく契約である。

そのように"育てられた"門脇麦は納得していたはずだった。

しかし、高良健吾の祖父の送別式をきっかけにこの家を離縁した女性がどうなるか、を知る。

つまり

産んだら終わりだー!!

高良健吾は高良健吾でそのように"育てられた"名家の跡取りとして、政治家の甥として言われるがままの人生を歩んでいくことしか頭になく、妻に"夢"を聞かれても答えられない。

しかし、問うた門脇麦もそのように"育てられた"ため、自分で夢をみること考えることなんてなかった。

彼らには"そのような生き方"か"そのようでない生き方"つまり望まれた通りの人生を言われた通り歩むか、その真逆を行って呆れられるかの2択しかない。

いや、後者すら頭になかったのではないか?
現状に絶望するまでは。

自分の行動を考えたことはなく、自分のやりたいことすら考えたことはない。

考えたことがないことすら気付かなかった。
"そのように育てられた"ままの人生を歩んだことで皮肉にも気付いてしまった。

気付いてしまった門脇麦は義母のプレッシャーに以前は疑問だった夫に対するある思いが首をもたげる。

彼と結婚しない"そのように育てられた"に逆らった人生とはどんなものだったろうか?

門脇麦は偶然、水原希子と再会し彼女の生活を垣間見る。

水原希子は過疎化する一方の地方都市から名門大学へ進学するも経済的な理由でそのまま大学にいられないかもしれなくなる。

水原希子は"そのように育てられ"てはいない。
自分で考え努力し金を作り、自分のことは自分で面倒を見る、つまり自分のことは全て自分で決めるしかない。
ある意味そのような環境で"育てられた"とも言える。

親から学費も出してもらえず、そうするしかないが、その中でもサバイバルし生き残って、華麗にやりたい仕事をして住みたい東京に住み、自分で決めた生活をしている。

水原希子にも良き友人がいる。
そう!
山下リオなのよ!

ああそうさ!
私は山下リオを10年以上追っているさ!

とんでもなく背が高くスタイルが良い美少女だった山下リオの顔よりも水原希子ちゃんの顔が小さいなんてどうゆうことですか?!

この世の人の顔はどこまで小さくなるんですか?!

そんな山下リオは水原希子とも違ってより貪欲だ。
彼女もいわゆる地方の零細企業の社長令嬢。
それだけではなく自分で起業したい、という夢よりも強い明確な目標のために日々努力をしている。

水原希子も山下リオも結婚は視野にない。
仕事が楽しいんだって!

門脇麦にとっては結婚しかなかった。
そのように"育てられた"から、結婚しない人生を考えたことがない。

石橋静河もそのように"育てられた"が彼女には結婚よりも大切な夢がある。

同じように地方都市で育ち東京に憧れて自らの意思で勉強し今を生きる水原希子と山下リオ。

そのように"育てられた"がそのような生活をしていない石橋静河とそのような生活をしている門脇麦。

この4人は互いに違う"階層"を生きる同じ世代の女性だ。

彼女たちがどうなるのか?

"どうにかする!と考える"のか?
"どうにかするために行動する"のか?

全てにおいて私はとても感動しました。

まぁ、1人の高良健吾くんから始まる4人の人生なのですがその4人の物語の語り方が巧いですね。

脚本がいい!
話運びと見せ方がスムーズで巧いー!

水原希子のドレッサーを見る時にメイク道具を敢えて映さず、映ったのはDAISOのネイルリムーバーがほんと一瞬だけ!

巧すぎる・・・絶対水原希子のキャラクター、美紀のメイク道具のブランドって塩梅がものすごく難しいと思うんですよ!!

デパコスばかりだと門脇麦と同じようなもんだろうし(デパコス買ってそうだけど!)、ドラッグストアのプチプラコスメとかも使わなそう・・・こういうのはどちらに転んでもディスられるので見せないのがベストなんですよ。

くぅ!

これがベテラン監督だったり才能のある信頼するクリエイターとは違い、初めて見る作り手にこのような手腕を見せつけられると、それだけで嬉しくてもう涙が出ちゃう。

し!
これからの未来に想いも馳せるじゃないですか?

岨手由貴子といえば「グッド・ストライプス」は評判を聞いていたのですがタイミングが合わず見れてなくて自分を殴りたいですよねw

表現の仕方が単刀直入にルル・ワンの2019年作品フェアウェルを見た時と同じ感動だった。

少しフェアウェルの中身に触れるのですが、あの映画はお婆ちゃんとの交流と移民や文化の違い家族の映画ではあるのですが、主役の30歳のNYCで生きる学芸員を目指す若い女性、アークワフィナの恋愛に関する話が一切描かれないじゃないですか?

それって凄く当たり前でいて、今まで絶対になかったことだと思っていて。

年頃の女性が主要キャストで映画内に登場すると、その作品のテーマとは逸れても絶対に女性の恋愛事情をあるにしてもないにしても触れられるんですよ!

でもフェアウェルは一切アークワフィナの恋愛や性生活に触れるシーンも匂わせる描写もない。

これは本当にすごい進化でルル・ワン監督本当にフラットで最高に正しい(T . T)と感動したわけですよ。

今作はそれと同じで。

女性の人生において恋愛が大切かどうかは人によるじゃん?!
向き合い方だって人によるじゃん?!

水原希子と山下リオは結婚する気が全然ないながらどうのこうのという会話があるからこそ!
逆に恋愛というよりは結婚に囚われていた門脇麦は初めて自分で"選択"をして"行動"しその呪縛から逃れた。

その後は彼女は自由だ。
恋愛をしようがしまいが、結婚を続けようが違う決断をしようが自由だ。

別れを決断しようが、新しい関係を築くことを決断しようが、自由だ。

彼女が自由を"選択"したことが非常に嬉しくもあり素晴らしくもある・・・ううぅ( ; ; )

高良健吾が「言うほど悪い奴でもない」からこそなんだろうなぁ!

こんな日本映画が作られて嬉しくないわけないじゃん!
ありがとう。
本当にありがとう。

これからもその視点と表現を捨てないように迷子にならないように作品を作ってくださるととても勇気がもらえます。

いやー門脇麦と水原希子も山下リオも石橋静河も本当に良い俳優になりましたね!

すげぇ気になったのが地方から東京に出てきた水原希子ちゃんも、東京育ちの箱入りお嬢様の門脇麦も、筋金入りの名家の跡取り高良健吾も、みんなみんな食事の時にいただきますもごちそうさまも言わない・・・。

いや!
どんな育ちでも性格でもご飯を戴く時には作ってくれた人、売ってくれた人、加工してくれた人、そして素材になってくれた動物の命や野菜の成長に感謝しようよ!!
Aya

Aya