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あのこは貴族のMのネタバレレビュー・内容・結末

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

丁寧に作られたことがわかるいい映画だった。

異なる場所、異なる家に生まれた人々の"違い"がとても親切に描かれていた。家というもの、その"家"のなかでの女の生き方、同じ大学の中での差、シャッターのおりた地方都市、タクシーと自転車と徒歩、友というもの。ややわかりやすすぎるかな、と思わないでもなかったけど、そのこまかく気を配って行き届いた親切さがなければ観ているのがしんどい映画になっていただろう。この映画のテーマは、もしそこを少しでも踏み外していたら「ああやっぱりこの映画でも分かってもらえなかった」と思うような質のものなので。

主演の二人もすごく良かったし、山下リオさんと石橋静河さんがとても良かった。

着ている服の一つ一つや食べているもの、部屋の調度品の細部もよかった。華子がジャムの瓶に直接指を入れてなめるのには驚いたけど、上流階級の人はそういうものなんだろうか。太宰の『斜陽』で、お母様は家の中ではお茶目に下品なことをする、と描写されていたような感じだろうか。
「女は家庭に入るもの」が前提になっているような家柄で、義母が嫁の留学経験や英語の能力に価値があると思っていることも意外だった。どの場面で使うことを想定しているんだろうか。海外旅行か、夫の仕事相手の客人をもてなす際なのか。

美紀は高校生のときから地元を出たいと思って東京の大学を受験したんだろうか。そうしていなかったら地元以外を知らないままだったろうか。華子は美紀に会っていなければ、あるいは仲間内に逸子みたいな人がいてくれなかったら、ずっとあの世界の中にいただろう。「棲み分けがされている」と言われていたように、実際には自分と"違う"人と出会うことはけっこう難しい。

幸一郎は完全に、今後も「あの世界」の中で上手に生きていくと決めている人だったけど、ラストシーンを見るにそうでない道を選んだ華子のことも拒絶しきったわけではなかったようでよかった。こういうところがこの映画の丁寧さというか、こまやかな視線の温かさだと思う(「こまやかさ」という言葉は女性的ということと結びつけられやすいからやや抵抗あるけど、そういう含意はない)。というかそもそも、詳しく描かれてはいなかったけど、あの家でなんとか離婚を認めてもらえたようでよかった。華子と美紀が会ったときの三角関係のドロドロとか、離婚に至るまでの様子とかそういうお決まりのパターンをスッと離れていたところもよかった。

それから映画全体を通じてサウンドデザインが良かった(二度出てくる、ヴァイオリンで演奏されるテーマだけはちょっと私の好みとは違ったけど)。アパートでの足音が響く感じ。

最後に華子が自分で運転しているのを観たときすごく嬉しくなった。この人は自分で、行き先を選んで移動することができるようになったんだ、と思って。
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