ジャン黒糖

あのこは貴族のジャン黒糖のレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.4
いやー今年の邦画は豊作っすね!!
日本映画もここに来て新しい時代の価値観のアップデートぶりを感じ、そして個人的にはこの先もこの映画のことを大事にしていきたい、そう思える1本。

【物語】
東京の超高級住宅街・渋谷区松濤で生まれ育った華子は27歳になり、周囲からも縁談を持ちかけられるように。
あるとき、良家の生まれである幸一郎と紹介で知り合った華子は一目ぼれし、お付き合いを重ねてやがて無事結婚が決まるのだが…。
一方、富山の田舎町の決して裕福でない家庭で育った美紀は、猛勉強の末に東京の慶応義塾大学に進学するも学費が払えずキャバクラで働きやがて中退。
その後、同大学の同級生で、しかも幼稚舎からの内進生であった幸一郎と再会した美紀は彼の紹介で仕事をしていくようになるも、東京で働く意味を見いだせずにいた…。

【感想】
硬質なポスターと裏腹に、序盤時折思わず笑ってしまう場面あったなぁ。
序盤の華子と整形外科医の息子とのお見合いは、親同士の意向とはいえ、「えー!この人と私人生共にするのー?!!!」と思わず華子の心の声が聞こえそうになるほど笑ってしまった、、笑

また、華子が優しいネイリストに誘われ訪れた大衆居酒屋でのギョッとする自分のいる"階層"とのギャップは不憫でニヤニヤ。。

華子のとっさに出る行動・言動から漏れ出てしまう良家の娘ぶりがよかった~。
クリスマスをはじめとする年中行事への美紀の家との取り組み方の差に思わず「信じられない」と言ってしまったり、美紀が落としたスプーンをめぐる華子と美紀の2人の反射反応が違ったり。
細かい描写ながらなるほどこれはうまいな~と思った。

幸一郎との初めての食事のシーンでは見惚れるあまり、食事は少なめでいいかと聞かれたにも関わらず「はい!お腹空いています!」には爆笑!笑
門脇麦さんでこんなに笑ったの初めてだな~。

映画のルックも良かったなぁ。
華子は後半のとある場面まで劇中ずっとホテルや高級料理店、邸内、マンションの一室など、貴族生活のなかにしかいない。
それこそ『スワロウ』の主人公を彷彿とさせられた。
ただ、後半のある場面を境に彼女はついに"とある階層"を抜け出し、自分と世界がつながり始める。


ちなみ、本作とは関係ないけど自分自身、慶應ではないものの、幼稚園、初等部からある私立大学に美紀同様、大学受験で入学した経験がある。
そのため、内進生、なかでも初等部からエスカレートした人たちを見てきたし、ホント劇中の美紀たちが遭遇した場面と同じく、入学したての頃、内進生の子と一緒に遊ぶと高そうなホテルスイーツ行ったり夜景綺麗な高層階行かされたりと金銭感覚の違いを味わったことがある。。笑
それこそ松濤に家のある子と何度か遊んだときは…あぁ、、、ハタチ前後の苦い思い出がよみがえる…笑

大学という場はそういった"階層"の違いを超えたコミュニティが生まれる場だと思っていたので、田舎出身の美紀が大学で幸一郎と出会ったことを考えると本作で描かれる華子の箱入りぶりはよりちょっと極端な気もした。
そのため、上述の笑ってしまった大衆居酒屋の場面も、いくらなんでも華子も大衆居酒屋くらい学生のころ友達と行ったことくらいあるでしょ、と観ていて違和感はあった。

ただ、そういった華子描写の違和感こそあるものの、この映画の描こうとした視点、女性が様々な”階層”の交差する東京という巨大な街で生き抜く姿、多様性にグッと来たし、こういう映画が日本で作られたことがとても嬉しかった。

2ケツで滑走する皇居周辺、ビニ傘をさして歩く銀座など、色々な”階層”の人々が交差する夜の東京の場面が綺麗だったなぁ。
一見華子の生活は庶民の自分からしたら何一つ不自由ないように見える。
ただ、その内実は生き方を制限された生きにくさを感じているかもしれない。

その点、高良健吾演じる幸一郎もまた、一見ケタ違いのクレイジーリッチな家柄ゆえ、生まれながらにして成功者のように見えるけれど、そんな彼もまた華子同様、いやなんなら華子以上に実は生まれながらに人生の選択肢がかなり限られた男のようにも見える。
心ここにあらずな男が似合う高良健吾、ここに健在!

そんな様々な若者が、それでも生き抜く”階層”。
それを映画の画的に見せてくれるラスト。
親友の逸子、華子、そして幸一郎の立っている”階層”はそれぞれどこか。
お見事というほかないラスト。


庶民側として描かれる美紀も、決して裕福でない家庭で育ち、東京で働き始めてからも、言い方難しいけれどある種”搾取”されて生きてきた。

「私たちって東京の養分だよね」
正に言い得て妙な一言。

先のことはわからないかもしれない。
けど、”搾取”されることなく自分たちの頭で考え、足で立つ東京は、これまでと全く違って生きにくさから解放されたものかもしれない。
そんな美紀が劇中最後に立つ場所もまた、とても解放感に溢れている。


やー、最初こそ笑っていたりもしたけど、ラストには映画的表現でグッと胸に来るものがある、忘れがたい1本となった。
これは男性の自分としても、この先も大事にしていきたい映画。
そう思える傑作でした。