鹿苑寺と慈照寺

あのこは貴族の鹿苑寺と慈照寺のレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.5
東京に生まれ、両家の箱入り娘の華子(門脇麦)は弁護士の幸一郎(高良健吾)とお見合いをする。とあるきっかけで地方の田舎街出身の美紀(水原希子)と出会う。別世界に生きる2人の選択とは?

章立てで華子と美紀の人物像が丁寧に描かれる構成になっているので、両者の違いが明確にされている。
僕はごく普通の家庭に生まれたものの、美紀が家庭の事情により大学をやめることになったということはとても他人事とは思えなかった。僕も危うかったので。個人的事情も相まって美紀にとても感情移入できた。美紀の自分らしく生きていく様にはめちゃくちゃ好感が持てるし、親友からの起業の誘いに即答するところが泣ける。

本作がとても素晴らしいのは、「男を媒介にして女性同士を対立させない」というところ。上記のあるきっかけで、華子と美紀が出会い、華子の親友の逸子(石橋静河)が間を取り持つ形になる。ありがちなのは、華子あるいは逸子が美紀を罵るということ。でも、本作は決して女性同士を対立させようとしない。かといって、有耶無耶にもしない。問題はしっかりと解決させるし、ヒステリックにもならない。ここがとにかく素晴らしい。

本作でクローズアップされるのは、同じ境遇で生きる人々の価値観(階級差という表現の方がおそらくわかりやすいが、使いづらい言葉なのでやめた)。別世界と言ってもいい。
本作では同じ境遇に生きる人たちの居心地の良さも描きつつ、それだけに留まらずに、別世界に住む者同士が抱える悩みにも優しく焦点を当てる。

「事情はわからないけど、どこで生まれたって最高って日もあれば、泣きたくなる日もあるよ」

とにかく本作は人を描く上での目線が優しい。上記の台詞が本当にぐっと来た。本当にそうだと思う。お互い色々としんどいよね、と。

前半で華子が色々な出会いを模索していたシーンにおいても何気ないやり取りの優しさや穏やかさがめちゃくちゃ良い。
大衆居酒屋での関西人とのやり取りも良かったし、特にタクシー運転手との会話が良かった。たった2行のありふれたやり取りなのにとても印象に残った。

高貴なお金持ち親族たちの抑圧も田舎の閉じた世界観もどっちも嫌だから、それらから抜けて前進する2人をとても応援したくなった。とにかく優しい映画。好きな1本。

以下は個人的メモ
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婚約者を連れてくるはずが別れる。

面倒な「家」、「家族」、「親族」という縛り。

本人の意思とは別に勝手に結婚相手を決めて、「いいわね」

冒頭の親族との食事会シーンからしてもうしんどい。

逸子が良いな。
「1回のお見合いでいい人に巡り会うなんてかなり難しいと思うけど」

お見合い相手、何も喋らないな。なんか喋れよ。

お見合い相手のコミュ障の後に仕事ができるタイプの遊び慣れた人という対比。その次は大衆居酒屋で飲み会。
「生なんかこんな可愛い子は飲まへんねん」

華子、めちゃくちゃフッ軽やな。

大衆居酒屋での関西人とのやり取り、タクシー運転手との会話、何気ないシーンのどれもが良い。

「定年後最大の不幸は娘が結婚しないこと」

家族の事情で大学をやめるはめになるなんて身につまされる。

「あなたのことはこっちで調べさせてもらいました」笑

美紀はバイタリティがあって良いな。

ノートを借りたのに返してない幸一郎

「2人を対決させようとか美紀さんを責めようとか、そういうんじゃないんです」

男を媒介にして女性同士を対立させようという構図にしないところ。
友達と言うだけで他人の恋愛に口を出して場を荒らすということもしない。
→逸子の立ち回りがとにかく良い。親友のためにヒステリックになることもない。

「田舎から出て搾取されまくって……私たちって東京の養分だよね」

同じくらいの境遇の人との関わりがどれだけ愛おしいかわかる。

お金持ちにはダサいのに割れないから捨てられない食器の話は伝わらないよな。

「うちの地元だって街から出ないで親の人生、トレースしてる人ばっかだよ」

「事情はわからないけど、どこで生まれたって最高って日もあれば、泣きたくなる日もあるよ」
階級差ということに着地しない在り方が最高。人を描く目線がとにかく優しい。
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