カタパルトスープレックス

リフ・ラフのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

リフ・ラフ(1991年製作の映画)
3.8
イギリスの労働階級の悲哀を一貫して描き続けるケン・ローチ監督。90年代から多作になっていくのですが、その代表作の一つです。一言で言えば、相変わらず「すべて貧乏が悪い」なのですが、弱い立場のまま抜け出せない人たちは常にいる。

刑務所を出てリノベーションの現場で働くスティーヴィー(ロバート・カーライル)。偶然に歌手志望のスーザンと出会います。スティーヴィーとスーザンは二人で幸せを見つけることができるのか?という話です。

淡々とドキュメンタリータッチで労働階級を時にはユーモラスに描きます。しかし、ケン・ローチ監督なので基本的に救いはないです。現場は労働者に厳しい。文句を言えばクビ。事故で死ぬこともある。はっきり言って、割りに合わない仕事。でも、それしかないんです。歌手志望のスーザンだって、はっきり言って歌は下手くそ。売れる見込みは全くなし。まったく、どこにも、救いがない。

ケン・ローチ監督作品って「自己責任」が叫ばれた1990年代にはあまりピンとこなかったと思うんですよ。労働者階級の悲哀はキャッチーなテーマですし、そこに同情する人たちも多くいたと思います。でも、多くの人は思ってた、「努力しないのが悪い」って。スティーヴィーだってスーザンだってもっと努力すればいいのに。そんな雰囲気が強かったのが1990年代だと思います。

累進課税が弱まって富の格差が1980年代から広がりました。その富の格差が問題視されたのは2011年の「ウォール街を占拠せよ」くらいじゃないですかね。その後に出版され映画化もされたトマ・ピケティの『21世紀の資本』でようやく多くの人が気がついた。これは個人の問題ではなく、制度的な問題なんだって。これって、本当に最近のことなんですよ。

貧困にハマったらなかなか抜け出せない。個人の力ではどうしようもない。スティーヴィーにもスーザンにも救いの光が見えない。救いようがないなら、最後はああするしかないですよね。