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風が吹けばのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

風が吹けば(2021年製作の映画)
2.2
【ナゴルノ・カラバフの自由は空港にかかっている】
第21回東京フィルメックスでは、今タイムリーなナゴルノ・カラバフをテーマにした作品が上映されている。『風が吹けば』はアゼルバイジャンからの独立を目指し戦争で破壊された空港再オープンを巡る物語だそう。カンヌレーベルにも選出されたこの珍しい作品を観賞しました。

本祭コンペティション作品『イエローキャット』同様、本作もアラン・ドロンで始まる映画だ。「ナゴルノ・カラバフへようこそ」の看板を通過し、車は寂れた国境にやってくる。国境警備隊は男からパスポートを取り、「アラン、、、デ、、、」と慣れない名前の読み方に苦労していると、男は「アラン・ドロンだ」とジョークを言う。アゼルバイジャン、ソ連、アルメニアといった国と複雑な諍いを繰り返し、すっかり疲弊してしまったナゴルノ・カラバフの人々にはどこか諦めの表情があり、珍しいフランス人の訪問に、歓待と少し投げやりな態度で接する。

このフランス人は監査員だ。ステパナケルト空港は再オープンしようとしている。アルメニア・エレバンとを結ぶこの航路を再び築きあげようとしているのだが、アゼルバイジャンとの問題もあり、一度監査する必要があるのだ。そもそも飛べるのかの不安定な空港だからだ。空港職員は監査員であるフランス技師に気を使う。だが、空港の床は浸水していたりと欠陥が目立つ。また、彼が滑走路を歩いていると、少年が敷地内に侵入していることに気づくのだ。少年は、空港の敷地のすぐ近くに住んでおり、水を売るための近道としてここを通過しているのだ。

ステパナケルト空港はナゴルノ・カラバフにとって自由の象徴のように映画では映る。周囲の国とのいざこざに雁字搦めとなって身動きが取れない息苦しさから解き放たれるような存在として描かれる。しかしながら、皮肉にも市民である少年の自由を奪ってしまっている。この矛盾はやがて、少年たちのイタズラで発生した火事という災害となって現れる。ハリボテだがなんとかして自由を得たい者とそれの犠牲になる者。その構図をフランス人技師という第三者の目から見た切なさが重厚に描かれた作品でした。
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