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Summer of 85のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Summer of 85(2020年製作の映画)
2.5
[85年の夏は全ての終わりであり、始まりであり] 50点

『2重螺旋の恋人』以来3年振り四回目のカンヌ選出となったフランソワ・オゾンの監督最新作。ポスタービジュアルからすると明るいバカンス映画っぽいのだが、いきなり警察に連行される金髪の少年アレクシスが"死体がどうのこうの"という不穏な話を始めるのでそんなこともない。彼は引っ越して間もない頃、一人乗りヨットが転覆した際に助けてくれたダヴィドという青年と親しくなるのだが、どうやら彼が未来の"死体"らしいのだ。物語はアレクシスへの事情聴取とダヴィドとの思い出という二つの時間軸を往来しながら、ダヴィドが如何にして"死体"になるかを解き明かしていく。

アレクシスは高校卒業後の進路に悩むナイーブな少年で、厳しい父親には就労を勧められていた。そんな父の仕事の都合で最近港町に引っ越してきたアレクシスは友人も少なく、突如現れたダヴィドは心の支えとなる。二人は甘美な時間を過ごすのだが、実際に彼らが互いを思う時間と同じくらい、見知らぬ酔っ払いを助けたり、偶然知り合った仏語勉強中の若い女性ケイトなどと、まるでヨットが転覆したあの日を再現するかのような対応をするダヴィドに対してアレクシスが嫉妬する場面も登場する。合間合間に挿入される現在の捜査パートを併せて、アレクシスがダヴィドを殺してしまうのか、という妙な緊張感が弛緩した物語を引き締めている(ような気がする)。一つ、特異なのはアレクシスが"死"の概念に魅せられていることだろうか。経験したことのない"死"への無邪気な憧れのようなものは、そのまま彼のナイーブさや危うさに直結しているのだが、その映像描写をモノローグでもう一回上塗りするのはいけ好かない。

本作品には初めて見た魅力的なアイテムがあった。それは折りたたみナイフみたいな形状と音のする金属製の櫛だ。持ち主はダヴィドなのだが、折りたたみナイフだろうが折りたたみ櫛だろうが、どっちも持ってそうな感じのする風貌で、前者→後者の持ち主であることを明かすというすり替えがとても上手い。

ヘッドホンを後ろから掛けてくる『ラ・ブーム』まんまなシーンがあって驚いた。『君の名前で僕を呼んで』の2年後が舞台だが、アレクシスとダヴィドの関係が結構オープンなのが意外だった。薄暗い警察署を引きずられていく冒頭からは考えつかないくらい爽やかな、『魔女の宅急便』みたいなラストも印象深い。オゾンはこれで3本目だが、未だに掴みきれない。
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