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アナザーラウンドのtetsuのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
4.0
機会があり、鑑賞。


[あらすじ]

冴えない高校教師・マーティンがお酒を飲んで人生バラ色に?!中年教師の仲間たちと始めた飲酒実験は、思わぬ成果を引き起こすが……。


[雑感]

今年の個人的"この映画宣伝がすごい!"
最有力候補だった。笑


[感想]

噂には聞いていたので、ある程度の心づもりは出来ていたけれど、予告編やポスターヴィジュアルの"酔っ払いミュージカル"みたいな雰囲気は嘘だった。笑

とはいえ、そのイメージとはかけ離れて、人生の厳しさを描いた展開が沁みる一作でもあった。
(観客の作品評価に影響を与えそうだとは思ったけれど、宣伝戦略としては間違っていないと思った。)

お酒を飲んだ中年男性たちがあれよあれよと成功していく前半の喜劇と、その先の悲劇を描いた後半。

導入はライトながらも、次第に人生の悲喜こもごもを語っていく展開が興味深かった。


[コントロールできないものの美しさ]

スマホなどの登場により、私たちの行動が"コントロール"されるようになってしまった社会。そんな現代の批判が着想のひとつとなり、本作は制作されたとのこと。

「"コントロールできないもの"にこそ、美しい善良さが宿っている」という監督の考えは、"お酒"を題材にした物語ゆえに際立ちますが、同時に"愛"に関するエピソードを盛り込んでいるのも印象的。

本作は単にお酒だけを"コントロールできないもの"として描くのではなく、"愛"もコントロールできないものとして肯定的に描こうとしていることを、見終わった後に気づき、深く納得した。


[若さと老い、人生の物語]

また、制作の背景としては「お酒は良くない!」というデンマークの風潮への批判もあったという本作。

それゆえ、飲酒を超肯定的に捉える展開が斬新だった。(社会的にギリギリアウトとされる事柄をも肯定してしまう物語に、若干、困惑も抱いたけれど……。笑)

また、若い生徒と老いた男性教師たちという2つのグループを、"お酒"の正の側面と負の側面として、ざっくりと描き分けたのも興味深いポイント。

正直、本作のラストシーンには、「それでいいのか……?」と若干のモヤモヤも感じてしまったけれど、本作の制作経緯を聞くと納得する部分もある。

どうやら、脚本執筆の際、悲劇的な展開に重点を置いていたという監督だが、自身の娘・アイダさんの助言を経たことで、希望を与えるエピソードを追加したとのこと。

そう考えると、劇中で若者たちがお酒の正の側面を担い、中年たちが負の側面を担っているのは理解できるようにも思った。


[終わりに]

撮影中に見舞われた悲劇を聞くと、完成したことさえも奇跡のように感じる本作。

裏話を知ると、監督の人生観や葛藤を反映したラストシーンに複雑な思いも抱くけれど、そんな部分も含めて、歳を経て、改めて観たい秀作だった。


参考

アナザーラウンド インタビュー: 飲酒が人生にもたらす光と影――トマス・ビンターベア監督の人生賛歌「アナザーラウンド」が放つエネルギー - 映画. com
https://eiga.com/movie/93273/interview/

『アナザーラウンド』監督、国際長編映画賞を撮影直後に亡くなった娘に捧げる【アカデミー賞】 - フロントロウ -海外セレブ&海外カルチャー情報を発信
https://front-row.jp/_ct/17448695

『アナザーラウンド』が描く酒と泪と男とおっさん 〜"酒は飲んでも飲まれるな"というが、飲まれてる人しか見たことない〜 | cinemas PLUS
https://cinema.ne.jp/article/detail/47524 
(実質、現役バーテンダーの方の感想が予想の斜め上過ぎて大好きだったので読んでほしい。笑)
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