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アナザーラウンドのbackpackerのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
3.0
【備忘】酒は飲んでも飲まれるな

本作撮影4日目に、本作にマッツ・ミケルセンの娘役で出演予定だった監督の娘さんが亡くなられたため、脚本を大きく変更することになった。この悲しい事件が本作に与えた影響は、やはり随所に感じられる。


四六時中……というわけではないが、ルールに沿った継続飲酒により、人生の幸福度を増大させることが可能か?という実験を通して、4人の男がそれぞれ抱える人生の課題に対し、各々の答えを示すという不思議な作品。
悲喜こもごもある人生の無常に対し、"飲酒"にフォーカスした切り口と出演者達の陰陽振り幅のある見事な演技により、暗めのトーンで落ち着いた色彩に調整していながらに、重くなりすぎず、むしろ軽妙で洒脱な印象をあたえる。



私は、酒に強く飲める体質であるが、飲酒自体を好まないことと、飲酒が別に楽しくないこともあり、酒の力によって自身の在り方に革新を起こすというスタート地点はあまりピンとこなかったが、この点は物語の本質ではないと思うので、別に気にしない。


酒の力を借りてでもどうにかしたい局面まで追い詰められた、マーティンと3人の友人。
彼らの人生に対する閉塞感に共感すると同時に、それを自らの有り様によって打破し、そのために、背を押してもらうために、酒の力を借りる。
他者でなく自己を変えるため、自分の内面(気の持ちよう)、固定化した常識、生活スタイル等、それまでの人生や自らを構築する土台を覆していく必要がある。
この変革には大変なストレスが伴い、一歩踏み出す決断をすることすら、こじんまりとだがとてつもない勇気が必要だ。

そうして、変わりゆく自分達の姿という幸福に文字通り"酔いしれる"と、相応の代償を払うことになる。まさしく、禍福は糾える縄の如し。
しかして、人間万事塞翁が馬、それだけでは終わらないことこそ、本作の善性の象徴だ。
ラストのダンスシーン。それまで頑なに人前で披露しなかったジャズダンスを、生徒や仲間の前で、はっちゃけて踊り狂うマーティンの姿は、閉塞からの解放が強く現れ、感動的である。
と同時に、この力強くルールのない踊りが、幼い頃からの友人が、今回の常飲実験の末に亡くなったことに対する葬送の舞でもあることから、やはり悲喜交々の感情を内包したものだという点が、寂しげなマッツ・ミケルセンのかんばせに感じられる。

悲哀も喜悦も、全て"飲み込んで"こそ、人生。
これこそまさに人間讃歌、人生の讃歌だ。
監督から娘さんへの葬送の舞は、大変美しくそして物悲しいものであった。

現在の私の感性では、本作が語りたいことの真髄まで感じ取ることができなかった、というのが本音。
いつか自分の感性がより深化し、この作品に対する受け止め方が変わった時には、再度自分の好悪・得手不得手・価値観等の基準で持ってレビューしなおしたいところ。
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