自家製の餅

アナザーラウンドの自家製の餅のレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
3.5
アルコールの国、と聞いてどの国を思い浮かべるかで、その人の人生観がわかる…とまでは言わないが、陽気な地中海のビールと、寒々しい北欧のビールではすこしばかり意味がちがう(とは言えよう)。

雑駁にイギリスとロシアの中間あたりの、ドイツにも繋がる国を思えば、おおよそデンマークという国と酒の関係性は読める。
そんなイメージをうまく体現した映画だった。


冒頭、学生がはしゃぎながら酒を使ったゲームに興じる(それも、半ばスポーツ的で、アメリカのそれとは異なる)。目には見えない鬱憤や、陰とした中の明るさを感じるシーンでもあった。
そこから、人生に希望もなくただやり過ごす中年教師たちが主人公として現れて、血中アルコール濃度を0.05%に保てばなんでもうまくいくのだ!とバカげた飲酒生活をはじめる。
ここで思うのは、ふとしたことで酒が見つかったりするような邦画でありがちな伏線は一切回収されないこと。もっと大きなことを語ろうとする脚本が清々しい。

ネタバレをそれなりに避けるため、詳しくは言及しないが、まあ量的なエスカレートと、臨界点としてのいくらかの破滅は想像の通りである。
中年の危機と、高校生の一過性の輝きのどちらもが儚く美しく、笑える。

それにしても、この国では誰もがアルコールと付き合いながら、憂さ晴らしのように人生を謳歌していくしかないという、明るい諦めが心地よい。
キルケゴールが引用されるのもまさにデンマーク。

劇中歌『Cissy Strut』の演奏はミーターズ。アメリカ南部の気だるい陽気さが鏡写しのようで見事な選曲だ。