ヨーク

ジュゼップ 戦場の画家のヨークのレビュー・感想・評価

ジュゼップ 戦場の画家(2020年製作の映画)
4.2
これはすげぇ良かったですね。素晴らしい。アニメーションっていいよなぁ…とつくづく思わされた映画だった。アニメ表現てまだまだ可能性あるよなって気付かされる。
まずざっとストーリーを解説すると本作はジュゼップ・バルトリというスペイン出身の画家の人生を追った伝記映画と言えるのだが、そのジュゼップが1939年にスペイン内戦から逃れて難民としてフランスに亡命するところから始まる。だが難民として南フランスにやってきた彼らはフランスの強制収容所に入れられてしまうんですよね。そして自由を夢見ながらも収容所の劣悪な環境下で飢えや寒さや病気に苦しむのだがあるときジュゼップは良心的というか素朴と言ってもいいような一人の憲兵と知り合い…というお話。
まずびっくりなのはフランコ政権下でのスペイン内戦で難民がいたのはともかく、フランスに亡命した彼らが強制収容所に叩きこまれていたということが全然知らなかったので衝撃だった。強制収容所という単語だけ見ればほとんどの人はまず悪名高いナチスのホロコースト施設を思い浮かべると思うがフランスにもそういう施設(無論フランスではナチスのような虐殺行為にまでは至ってはいないが)があったのだというのは意外でびっくりでしたね。監督のオーレルさんによると本作のスタッフでもその歴史的事実を知らなかった人が多かったらしいからフランス国内でもあまり触れたくはない黒歴史的な扱いを受けているのかもしれない。
で、本作はその非人道的であった難民の取り扱いを問題提起しながらもそういう運命に翻弄される一人の画家のお話であるのだが、その物語は上記したフランス人憲兵が年老いて孫に昔話として聞かせるという体で語られるのですよ。これが素晴らしい効果をもたらしていたと思う。というかその語り口ありきで全ての場面が構成された映画なんだろうな。というのも収容所の難民と憲兵という関係性がメインになりつつも、その二人の間には奇縁とも言えるような友情が芽生えて戦時下の強制収容所という灰色な舞台でもあるに関わらずに青春物語のような側面もある映画なんですよ。そしてさらに言えば今は老いさらばえてその昔話を孫に語る元憲兵はもう余命数カ月というような状況なのでぶっちゃけ記憶も曖昧でほとんど呆けてると言ってもいいような状況。それが映像としても活かされてるんですよ。
何がそんなにマッチングしているのかといえばこの映画、率直にアニメーションの原画枚数でいえば少ないんだよね。つまり画があんまり動かない。そして背景もぼんやりとしていて余白が多い。こういうのって日本の、よく言えば緻密で悪く言えばクソリアルなアニメに慣れた人からすれば手抜きだったり稚拙なアニメーションだと思われるかもしれない。実際に作画コストを省エネするための意図はあったのかもしれないが、でも上記したように本作が死期が間近な老人の昔語りなのだとすれば余白だらけのぼんやりした背景も動きの少ない人物の作画も全ては一人の老人の記憶の中の映像化だということで途端に説得力や実感のある映像になるんですよ。
『ファーザー』とか『レリック』とかも同じテーマの映画だったと思うけどこの『ジュゼップ』も曖昧な記憶の映像化という作品だと思うんだよ。だから動かない作画も白い背景も作品にとっては必要なものであるとしか思えない。そして人物や風景の像はぼやけて曖昧になっていくけれどそこにあった友情だけは色褪せないんだよな。
この物語を描くためにはアニメーションという表現しかありえなかっただろうし、その中でも非常に優れた演出が採用されていて素晴らしい完成度の映画だと思うね。
キャラクターも良くてお人よしの憲兵の善性とかメキシコでのフリーダ・カーロの描写とか凄くいい。正直俺はジュゼップ・バルトリという画家は知らなかったんだが凄く引き込まれたね。現代に戻ってのラストシーンの粋さもいいんだ、これが。
凄くいい映画で、特にアニメが好きな人には必見であろうと思う。機会があればもう一回観たい。
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