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FLEE フリーのumisodachiのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.9
アニメーションで綴られたドキュメンタリー作品。

アフガニスタンで生まれた青年アミン。父親がタリバンに連行された後に家族と共に国を逃れた彼は、数年の時を経てひとりでデンマークへと亡命した。30代になったアミンは、今まで誰にも話していなかった自分自身の物語を語り始める。

これは凄まじい作品だった。アフガニスタン難民だった青年が過去を述懐するというシンプルな内容なのだが、想像していたよりもずっと深いところまで到達していく【物語】に息をするのも忘れてしまった。あまり前情報を入れずに観てほしいので細かい部分については触れないで感想を書こうと思う。

シンプルなアニメーションと、実際のニュース映像を組み合わせた映像は淡々としているが、内容が内容だけにスリリングでキツい。どんどん追い詰められていく状況や、家族でロシアに渡ってからの窮屈な生活など、具体的な描写が仔細に綴られていく。

一方、アミンとカメラを持つ親友とのナチュラルな友人関係や、アミンと現在の恋人との関係性なども収められている。アカデミアの世界で成功しているアミンが持つ柔らかい雰囲気。それでいて、どこか人を寄せ付けないような距離感。軽い冗談も含んだ彼らの会話から、そういったアミンのパーソナリティがこちらにもしっかりと伝わってくる。

記事で読んだり、ニュース映像を見たりしてもわからないことは確実にある。難民の人生が客観的に綴られた資料を見ても、わからないことは無限にある。人間の中にはさまざまな歴史があり、想いがあり、恐怖があり、希望があり、愛があるのだ。ひとりの人間のなかに広がる世界がこんなにも深く広く、想像もつかない形で広がっていることに私は驚いた。

大きな信頼を得ているインタビュアーがいたこと。アミンに類まれなる知性と勇気があったこと。奇跡的な条件が揃って初めて実現した傑作ドキュメンタリー。シンプルな難民苦労話だと思って臨まない方がいい。難民として生きることとその恐怖、同性愛という言葉すらない社会でゲイである自分と向き合うこと、家族との関係、今の自分のアイデンティティ……社会を描くとともに、人間の深淵をも見事に描き切った大傑作。絶対に観て。
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