APlaceInTheSun

FLEE フリーのAPlaceInTheSunのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.4

昨年ヨーロッパの映画祭でも大絶賛されていて、
その後のアカデミー賞で史上初めて
・長編アニメ映画賞
・国際長編映画賞
・長編ドキュメンタリー映画部門
の3部門同時にノミネートされた作品。
という情報は知っていた。「ドキュメンタリーでアニメーション作品ってどんなんだろ?」と公開を楽しみにしていた。

「FLEE」
アフガニスタンに住む家族が、迫害から逃れる為に国外逃亡する物語。FLEEというタイトルそのままの作品。
彼らは何度も何度も生活を脅かされる。その度にFLEE(逃亡する、逃げる)する、FLEEを余儀なくされる。

鑑賞開始してすぐに観客に示される。
未だに絶対的に安定な立場にない主人公アミンとその家族の身を守る為に、アニメーションという表現形態を採用したという事が。
ただ理由はそれだけではないだろう。アニメーション表現が持つ抽象性が、
「紛れもなくアミンの物語」であるはずのストーリーの場面場面に、観客が自分自身の記憶と接続するための媒体としても機能する。
日本人なら、凧揚げの場面に何らかの懐かしさを覚える人は少なくないだろう。


アフガニスタンの軍隊も、ロシアの警察も、国外逃亡をビジネスとする闇業者の連中も、残酷で人命に対するモラルがなさ過ぎる。

物語が暗く残酷なシーンになると、アニメ絵柄が粗くプリミティブなテイストになったり、時にはニュース映像のような当時のアフガニスタンやロシアの映像も挟み込まれる。やはりドキュメンタリーなのだと痛感する。

インタビューの聞き手とアミンの声に、実際の声を使う「当事者の語り」も本作の強度をより高めている。


本作で自分が感動した点を2つ。
1つは、多くの青春映画がそうであるように、主人公アミンの恋愛が彼の苦難を乗り越えるエネルギーとなり、美しく苦い思い出として描かれている点。
勿論アミンは性的マイノリティであり、アフガニスタン出身どいう事もあり容易に周囲に相談できない悩みは付き纏う。むしろ病人扱いされる危険性も。
ヨーロッパに逃亡する為に一緒に車に乗り合わせたあの彼との場面。一つのヘッドフォンで音楽を聴き、狭い車内に横たわる。辛く厳しい半生を振り返る作品の中で、あの瞬間の恋の始まる前の眩い何かを描いた一番好きなシーンだった。金のネックレス…落涙。

もう1つ、一番感動したポイントは、
どんな苦境にあえいでいても、英国ポップミュージックや、映画スター(作中で言及されるジャン・クロード・バンダムや部屋にポスターが貼ってあったチャック・ノリス等)などポップカルチャーに夢中になることが、例えほんの一時であっても主人公アミンの甘美な逃避場所になりえていること。

前述したヨーロッパ逃亡への車内でもそうだった。
幼少期のアミンがまだそれが意味する事を良く理解せずにお姉さんのワンピースを着て街を走り回るシーン。あのときもヘッドフォンでA-HAの「TAKE ON ME」を聴いていたのが印象的だ。
ポップカルチャーは容易に国境を超えるし、規制の固定観念を打ち破る起爆剤にもなり得る。
APlaceInTheSun

APlaceInTheSun