つかれぐま

FLEE フリーのつかれぐまのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.0
22/6/13@調布#8

アフガニスタンのある家族が、イスラム原理政権の恐怖からロシアへと逃亡(FLEE)する。だが、そこには更なる地獄が待ち受けていた・・・。少年アミンの視点で描くアニメドキュメンタリー。

目を背けたい悲惨な事実。
だが、そこに観客を惹きこんでいく演出が見事だ。「社会派視点で、時系列に従って、事実に正確に」という正攻法ではうんざりしてしまう話を、「少年アミンという個の視点から、現在と過去を何度も往復し、ファンタジックなアニメーションで」語る。気がづけば、ドラマや実写ドキュメンタリーでは辿り着けない領域まで観客を運んでくれる。

監督のアミンへの優しさ。
人を信用できないアミンの気持ちを理解し、心を開くその時を待つ。そういう愛情が全編を包み込んでいるのも、本作の魅力だ。監督自身のセクシャリティは分からないが、アミンの同性への愛を「作中唯一の希望」として機能させる。これは観客がほっとできるだけでなく、カミングアウトしたアミンに向けて「ここにいていい」という最上級のメッセージにもなっている。

時折見せる観客への鋭い問いかけ。
これから性暴力を受けるであろう女性を前に、何もできなかったアミンの自省。アミンに感情移入するあまり、逃亡中の老婆を足手まといと感じてしまう気持ち。洋上でクルーズ船と遭遇した時、アミンの屈辱的な思いだけでなく、逆にクルーズ船客の複雑な気持ちもちょっとわかってしまう。「あなたに何ができますか?」というシビアな問いかけが続く。

見る「べき」映画。
↑この言い方は好きになれないが、あえて言えば「難民のために」とか「ウクライナのために」とかじゃなくて、少しでも他人に優しくなりたい「自分のために」見るべき映画。