サラリーマン岡崎

FLEE フリーのサラリーマン岡崎のレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.9
ドキュメンタリーをアニメで表現するのは『戦場でワルツを』でも行われていたが、この映画が画期的なのはアニメにすることで、個人情報をしっかり守ること、そして、実際にその場には撮影に入れない様な過酷な状況も映像化できることである。

監督と主人公は25年来の友人の様だが、その監督の友人に対する愛がこの演出方法でも伝わる。
そもそも、主人公は密入国した背景から誰にも自分の過去を明かすことはできなかった。
それがあるから個人の情報を守るという意図もあるだろうが、
彼がこれからも生き生きいきていくためにもアニメにして情報を伏せたのもあるのかなとも思う。
もちろん、ドキュメンタリーは社会の真実を伝えるものではあるが、
それによって当事者が傷つけられることもある。
この映画は社会への発信もしながらも、当事者も守る両方を保ててる。
演出方法が監督の意志と愛を感じられることがとてもよかった。

そして、アフガニスタンの内戦の様子やロシアから密入国をする様子は
実際にはカメラに収めることができないからこそアニメにする。
そして、それを主人公が語った体験を元にアニメにしていくため、
通常のドキュメンタリーよりもよりエモーショナルになる。

でも、この愛のあり、エモーショナルな演出によって、
主人公の置かれる環境の辛さがにじみ出る。
しかも、アフガニスタンも昔はアメリカの音楽を聞いていて、
結構裕福な暮らしを送れていたということも知らなかった。
そこからいきなり亡命せざるおえなくなり、亡命先ではひどい扱いを受け、
密入国もしなくてはならなくなる。
日本もいつこうなるかわからないと感じさせる。

そうやって辛い中で、ゲイでもある主人公が最後に兄に連れてってもらう場所がとても愛があってとてつもなく感動できる。
主人公に対する監督や家族の愛を感じる本作。
そして、映画内で出てくる恋人からの愛。
主人公は恋人に対して隠していることがいくつかあり、
正直恋人からしたら隠していることは快くはないけれど、
広い心で彼を受け止めている。
過去から愛されていた彼が、これからの未来も愛に包まれることが想起させられる。

もちろん過酷でとても辛い映画ではあるが、個人にフォーカスしたドキュメンタリーだからこそその愛を感じることができる作品だった。