よしまる

FLEE フリーのよしまるのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.0
 3年ほど前にフィルマのレビューを始めて以来、これほど忙しくなったことはないってくらい時間に追われてしまい、いつもいいねいただいてる方には不義理をしてすみません。

 時間がないのでついついアニメやドラマなど短尺ものばかり観てしまってそれはそれで楽しいのだけれど、やはり映画で没入できた方がストレスは解消できるよね。

 そんな中、気になっていた北欧発のアニメーション映画を隙間時間に鑑賞。
 アラブ系の英ラッパー、リズアーメッドとデンマークの名優ニコライコスターワルドーがプロデュースと英語の吹き替えをしている。

 動きは思った以上にカクカクとして、けして流麗なアニメーションを楽しむ映画ではない。
 もともとアニメにしたのは移民の密入国というセンシティブな内容から登場人物の顔割れを防ぐ目的もあったとのことで、しかしそれが逆に不思議なリアリティを生みだしていた。

 オープニングはちょっと懐かしいロトスコープのアニメーションに、a~haのテイクオンミー。アフガニスタンであろうと80年代MTVのヒット曲は世界的に蔓延していたと思われ、本編ではエイスオブベイスやロクセットも効果的に挿入される。
 そう考えると現在の若者は細分化されすぎて万国共通のヒット曲というのを持たないのかもしれない。情報がこんなにグローバルに繋がっているのに不思議なもんだ。

 劇伴も魅力的だ。音楽のウノ・ヘルマーソンはニコライコスターワルドーの特捜部シリーズも手がけているスウェーデンの作曲家。効果音も含め、音響がとても意味を持って迫ってくる感じがした。

 さて、そんなアフガンで過ごす子供アミン。
家族と離れ離れになり、祖国を捨てても生き延びていかなければならない、いや、そうしなければ生きていくことが出来ない過酷な現実が描かれていく。ロシアへ、デンマークへと密入国を試み、時にはいつ死んでもおかしくないような環境におかれる。

 なにが正しいか、どうすれば正解なのかなんてどうでもよくて、生まれた地から遠く離れようと、この世に生まれついたひとりの人間として人とつながり、志を持って生きていくことの素晴らしさを圧倒的な筆致で見せつけられてしまう。
 ぼくたちにとっては、生まれたところでそれなりに暮らして死んでいくのが当たり前。
 その当たり前のことが許されない人でさえ、こんなにもたくましく、家族を、友人を、恋人を(しかも本作は同性)愛することの尊さ、したたかさを失わずにいるというのに。

 憐れみや情けなどではない、ただただ自分の現実を突きつけられてしまう重さを感じる映画体験だった。