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スパイの妻のkazataのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
4.0
元のNHKドラマは未見ですが……今の時代にオリジナル脚本(濱口竜介&野原位の東京藝大出身のクロキヨ監督愛弟子コンビ!)でこんなに攻めた映画(…と言ってもちょっと前までは何の問題も無く作れた企画のはずだけど…)を作ってくれたNHKグッジョブ。

全体主義へと突き進み個人の自由度がどんどん制限されていく中で、ある夫婦の"日常"が"異常"になっていき、ある意味で蒼井優が"狂ってしまう"んだけども、その時に「果たして狂ってしまったのは個人か?国か?」が問われる、と。この時代の息苦しさやイヤ〜な感じ、今の日本社会にも蔓延してきてる気がして仕方ありませんね。
(コロナ禍でのデマ問題や自粛警察やら、昨今の公安出身官僚の発言力をどんどん強めていく政権運営……ってなんらあの頃と変わってないじゃん!)

物語的にも面白かったし、作り手たちの危機意識や志の高さは感心するんだけれども、正直言って夫婦のラブストーリー面では物足りなさも若干……。
(映画愛溢れる展開は感動できたけど予想通り過ぎる印象も…)
(冒頭の高橋一生の会社を東出くんが訪れるシーンは『戦火の馬』のスピルバーグ演出と同じような"軍帽"の使い方をしてる気がして胸熱でした…)

そして、731部隊を絡めた日本軍の負の側面に触れる辺りの気概も評価したいんだけども……別にネタバレでも何でもないのに、この文言すら公式HP等で一切触れられない=タブー視されている状況(メンドくさい人たちに電凸されるから)自体がかなりヤバいと思うんですけど!
(僕が小学校の頃とか戦争関連の書籍には普通に記述ありましたよ……って言うとすぐに自虐史観だなんだって文句言われそうだけど、非人道的な人体実験は日本に限らずいろんな国でやられてきたし、罪を認めたり受け入れたりするのが大人な態度=成熟した社会だと思うんだけどもね。ってか、そういう恐ろしい事実を知っているからこそ、ホラー映画『TATARI』とかをドキドキしながら見に行って肩透かしくらったりした思い出が生まれたわけでね…)

(なんか別のところでも言った気がするけど、"自虐"できるのって心に余裕がある側の特権だと思うから、自分は堂々と自虐ネタができる人になりたいけどな…)


以下、余談と言うか思い出話です……

自分は3兄弟の長男でして、小1の頃に学童クラブに通っていた頃の思い出なんですが、当時ひとりの小2男子に懐いて一緒に遊んだりしていました。なんか初めてできたお兄ちゃん的な存在で嬉しかったんだと思います。
で、その子は中国籍(中華料理屋さんの息子)だったんですが、苗字も名前も一般的な日本名だったので、幼心に不思議に感じたことを覚えています。(本名も聞いたはずなんだけど忘れちゃってるわけで…)

夏休みも平日は学童クラブに通うわけですが、ある日、その子と二人きりで図書館に遊びに行くと、映写室で戦争映画の無料上映会をやっていました。で、涼を求めて的な軽いノリで入って見たのが"三光作戦"(南京虐殺)の映画という…(笑)
(今や公立図書館でそんな作品の上映自体ができないよね…)
(小学校低学年の男子二人がノーチェックで入れる辺りものどかでいい時代だったな……上映途中で入ったからふらっと入れたのかも??)

で、これがまた強烈な映像体験でして……今でも断片的に覚えているぐらいトラウマ級にショッキングな殺戮映像のオンパレードで……。
(当時は記録映画="リアルに殺人しまくってる様を撮った映像"だと思って見ちゃってたけど、今思えばさすがにフィクション映画だったはずだよね……もう一度見たいんだけどもタイトルがわからない)
(加害側の視点で作られた邦画がある時代まではちゃんと作られていたってことが大事……って言うかドイツは未だにちゃんと作り続けている!!)

上映終了後に学童クラブに帰るまで重い空気になったこと、大好きで慕っていた彼に対して漠然とした罪悪感を感じたこと、でも別にその後の彼との関係性が変わらなかったことで安心感を得たこと、そんな彼の味方でいたいと思ったこと、、、なんか「言葉にできないけどこの感情を大切にしなきゃ」ってストンと思えたと言うか、(仮に南京虐殺は無かったとか三光作戦自体も嘘とか言う意見を受け入れたとしても、日中戦争があって民間人の犠牲者が一定数出た事実はあるわけで…)自分にとっては何より"中国籍の彼と一緒に日中戦争映画を見た"っていうのが出発点的な体験になったんですよね。
(だから戦争の被害意識だけじゃなくて加害意識も忘れちゃいけないと思うし、それを自虐史観って言われるなら別に自分はそれで全然OKだし…)
(翌年、彼はもう学童クラブに来なくなったから結局疎遠になっちゃったし、自分も小3で転校したからその後の彼のことは全くわからないけど、幸せに暮らしていたらいいな……)

(「あの頃に自分が感じた"想い"は本作で蒼井優がフィルムを見て感じたものと同じなんだ!」って言いたいがために長々と思い出話をしてしまいました……)
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