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スパイの妻のmuraのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
4.0
黒沢清の手にかかればこういったテーマでもホラーとなるか。「狂っていない」人間が「狂っている」とされる「狂っている」社会には確かに恐怖を覚えるが。

対米戦が近づく日本。神戸で商社を営むユウサクは、妻のサトコと洋館に住み、洋館を着て、優雅な生活を送る。軍国主義の風潮が高まるなかでも自由を謳歌するユウサクだが、旧知でもある官憲のタイジはそれをよく思わない。あるときユウサクは満州へと向かう。もどってきたとき、ユウサクは変わっていた。タイジはその行動を疑い、それをサトコに告げる。不安を募らせたサトコは、思いをユウサクにぶつける…といった話。

映像が暗い。とにかく暗い。でもそれが、陰鬱な空気に覆われつつある当時の社会状況をよくあらわしているような。同時に、途切れることのない緊張感もかもし出して。

冷静にものごとを考え、客観に基づく正義を貫こうとするユウサクを取りまくこの雰囲気、そして閉塞感…まるで今の世を見るよう。それを感じさせるのがこの映画の大きなねらいか。

一方で、ユウサクは「コスモポリタン」を自称し、世界の平安を第一に考えるが、サトコは夫婦の生活こそを第一と考え、ユウサクの言動についていけない。理想を語る夫(男)と現実を見る妻(女)と。そう、この映画は夫婦、男女の関係をも描くんだなと。

常に張りつめた感じで、引きつけられたまま時間が過ぎる。なかなか面白く見た。でも、肝心の結末がどうも安直に感じられて…

しかしこのふたりの演技は見ごたえがある。前回はラブドール作家とラブドールの関係だったのに、大転換だなと 笑
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