otomisan

ヘル・フィールド ナチスの戦城のotomisanのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

 深夜、消し忘れたテレビから流れてきたのがこちら。ナチスで地獄の城と聞けば不死身の妖怪兵士かなんかの培養中が相場というわけで、朝っぱらから笑わせるじゃねーかと思ったら、ナチスに殺された富豪一家の幽霊だそうな。ユダヤ人の保護をやっていて報復を受けたのなら連合軍兵士を逆恨みするのも不可解だ。幽霊相手じゃケンカにもならないので逃げだそうとするが富豪の領国から悪夢のように出て行けない。
 幽霊たちは彼らと入れ替わりに逃げて行った前任部隊を脅かしこそすれ引き留めはしなかったのに、見ず知らずな彼らに限って何の用事があり、なにを「おもいだせ」というのか?

 たまげたのは、この幽霊戦争がVRであり、その正体はアフガン戦争の重傷者治療のために負傷した部隊員ワンチームをあたまとこころを配線で繋げて一個のVR上で作戦行動させて、チーム力で士気を維持し困難な治療に無意識裡に一丸となって立ち向かわせるというものである事だ。
 そのチームにVR上、課せられたタスクの筋書きは1944年のフランスでドイツが撤退しつつある場面、元敵司令部の城館の守備という楽な任務の設定だったはずなのに、治療6週目で遂にチームの心的環境が破綻してしまうほどVRの内容が荒廃してしまう。
 この場面でもまだ、幽霊の正体も、「おもいだせ」の意味もまだ分からない。そこで、さらに彼らが重傷を負ったアフガンでの任務の記憶に話が飛ぶ。

 いつの時代でも変わらないが、戦地では、現地の人を通じた対敵諜報が欠かせなくて、それが不首尾に至れば情報提供者の身に危険が及ぶ。だから、彼らの救出作戦にも部隊は動くわけだが、最新の偵察情報が秒刻みで配信され、情報士官が危険を察知すれば即作戦中止、情報提供者は手のひら返しで見殺しにされる。まるでジャッジの指示でプレーの可否を決められるスポーツのようだ。
 そうして殺された情報提供者一家にまつわる彼らの記憶が「おもいだせ」とVRの底から突き上げて死者をよみがえらせるのだ。別に祟りなわけじゃあないが、死んだ一家が発した呪いの言葉もそうだし、不用意に通りすがりの子どもに渡したリスのぬいぐるみがその子の命取りになった記憶も同じだろう。
 現場に出てみれば、作戦は完遂させなければどんな心残りを起こすか知れない。相手がこちらの不作為や不用意な事で死んでしまうようならなおさらだ。では30秒後にISの増援が着くと知っていたらどうする?
 今の戦場は情報が豊か過ぎて、こんな齟齬をきたしてしまう。そう思うと身代わりロボットの兵士がこんな役目を代わってくれるなんて事もありそうな気がしてくるが、それはさきの事。

 アフガンで一家を助けたくて、それを「うそ」にしてしまった彼らは1944年のVR上で大荒れの死者たちに「うそ」の落とし前をどうつけるのだろう。1944年には敵増援の直前情報なんてなかったからきっぱりと5対多数でも戦うしかなかった。死んだ一家への負い目から産まれた幽霊たちを前にして、VRの戦場で今度こそ節を曲げずになにかを守り通す戦いが彼らに求められるのだろう。ひどい話だが、ほかにどんな決着があるだろう。

 ただ、惜しむらくは、その大荒れな1944年のVRが現在、あの医療現場あるいは現実の世界全体をいかに脅かしているか、という切迫性、真迫性を突き付けきれていないので、彼らが1944年に戻って事態を収拾させねばならない必然性がこころに押し寄せて来ないのである。
 アフガンを舞台に戦争の非情さを訴える物語として大変凝った作りが目を瞠るものとなったが、一方で、VR世界という、ここでは人の心模様をコンピューターが読み取り物語に編纂してゆく過程で、裏切りや過失に起因した負い目という心の歪みを著しく増幅させて電子の怪物を作り出してしまうという、科学の産物が暴走する恐ろしさも描かれているのだが、この第二テーマはそれほど顕著な掲げられ方をしていないので、誰も気が付かないのではないだろうか。
 戦争での英雄的行動が一転して凶悪に墜ちる恐ろしさも無残だが、そうして生じた心の傷を機械の知性がその顕著さ故に過重に扱って現実を脅かす事件化に至る、科学にも人間に関しても未熟なため生じた不始末の尻ぬぐいもまた人の仕事として戻されてゆくことのやりきれなさが丁寧に描かれていれば、最後のフランスの夜明け、シガーの香に醸される緊迫感も余韻深く感じられただろう。