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サイレンシングのotomisanのレビュー・感想・評価

サイレンシング(2020年製作の映画)
3.9
 槍の穂先が黒曜石?カナダの辺境地帯には原始人でも居るのか?と思ったら、ガラス質を透かして"MB"の文字が。

 若い娘の死亡事件を巡る謎が数万年スケールからごく最近まで縮んでしまったうえに若い娘限定の石器人萌え連続誘拐狩猟殺人ともなるとただの変態であろうか?その傍らではよく聞く話で、酒とドラッグが失業の憂さ晴らしで蔓延する荒れっぷり。無人境にポツンとあるドラッグ市場の廃工場だけが活況を見せる無法地帯でもあったりする。まさに事件の温床、それならそれで、どんどん被害者を積めば行動分析話も盛り上がろうというものだが、監督はそんな事に興味がない。

 物語を引っ張るのは確かに、犯人自身が明かすように訳あっての連続誘拐殺人事件である。しかし、主人公はその被害者の中に5年前に失踪した自分の娘を認め犯人に復讐を遂げ、事件の全体像をうやむやにしてしまう。しかも、その場に居合わせた保安官も、ある事情から主人公の復讐行を押し止める事も逮捕もできない。
 サイコ野郎についてはうやむや。主人公の凶行も保安官との抜き差しならずな関係も封印しての、この奇妙な状況に陥る事から、もうひとつ別のはなしが芽生えてくる雰囲気なのだが、その転機を示して物語を畳んでしまうのがなかなかいい塩梅なわけである。

 犯人を事件に招き寄せた飲酒ひき逃げ被害者遺棄殺人。一方、大酒呑み準中毒の主人公。対して、その娘の生存を否認した犯人。酒を買いに寄った隙に娘を誘拐された主人公、そして、その犯人を殺す主人公。
 あのとき買った酒瓶の封、それだけは切れないまま5年、別の被害娘を助けたことから酒を断つ事が叶い事件を私的に終息させた主人公のもとに娘はもう戻ってくる事もないし、犯人に引導を渡してもきっと、大酒吞みだった自分を振り返ることに終わりはないんじゃないか?さて、明日何をすればいいだろう?
 そんな夕暮れ、あの日の酒瓶をまた手にしながら、娘が嫌ってた狩も止めたじゃないか、事件の再発を期に酒も断てたじゃないか、ともまた思うわけだろう。この味わいは子どもにはまだまだ早いだろう。