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樹海村のKAJI77のレビュー・感想・評価

樹海村(2021年製作の映画)
3.4
ウチの大家さんは時たま僕に畑で採れた野菜を恵んで下さる。
このことは貧しい一人暮らしには大変嬉しい半計画的な僥倖だ。
つい先日、ことエネルギッシュさでは無気力な自分よりも若く見える大家さんから、立派な大根、カブ、人参を2本ずつ僕は頂いた。
特にカブなんてものは自分では決して手を出せない(わざわざ選んで買おうとはしない)ため、母から譲り受けたレシピ本の、真っ白な余白をまじまじと見つめる時間は忽ち僕の暇を埋めつくした。
その日、肉をあまり好まない僕の冷蔵庫は一夜にしてその目抜き通りを『樹海村』へと変容させたのだった。

焦燥感に忙殺された一月を乗り切り、今年初めて劇場に足を運んだが、まさか最初に観る作品がホラーだとは思っていなかった。完全に一緒に赴いた友達の意向だ。(彼はホラー映画しか観ない)

内容としては、清水崇監督の前作『犬鳴村』に構成は酷似している。正直、焼き直しとも言えると思う。他にアイデアはなかったのか…。しかし、自殺の名所として名高い富士の樹海を舞台に繰り広げられる、とある「呪い」というテーマ設定は、日本人的なスピリチュアリティを上手く捉えていたとも思う。自殺という現代の問題もサブテーマなのであろうか?(寧ろ死者への冒涜なようなシーンもあって、そこまでは読み取れなかったが…)

個人的な意見になるが、Jホラーの強みとは「なさそうで、ある」という一般的な共感性に根付いた認識の切り崩しにあると考えている。例えば、僕が同ジャンル内で最高傑作だと思っている『黒い家』(1999)とか。実際にありそうな事だという身近さが感じられないのなら、それはホラーではなくSFかファンタジーへと降格してしまう。
冷たいことを言ってしまうが、没入感という点で『呪怨』の名を轟かせた清水監督の作品とは思えないほどの超現実主義を目の当たりにしてしまって、あまり楽しむことは出来なかった。

「恐怖」という、本能と最も直結した感覚だからこそ、我々視聴者も並大抵のことでは動じないという事を監督に伝えたくなるような内容だった。
しかし、同時にもっとホラーを観て研究したくなった。

そんなこんな愚痴愚痴と黄土色の天井に零しながら、リビングの片隅に横たわった樹海村は、幻惑の白装束を身にまとってポトフへと退化していった…。
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