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そこにいた男のYOUのレビュー・感想・評価

そこにいた男(2020年製作の映画)
3.7
片山慎三が監督を務めた、2020年公開のサスペンスドラマ。
2018年に『岬の兄妹』で鮮烈なデビューを飾った片山慎三監督による33分の短編映画である本作は、2019年5月に発生した「新宿ホスト殺害未遂事件」に関する”1枚の写真”から着想を得たとのことです。まず冒頭からいきなり映されるのは、マンション内のエレベーターの前に血まみれで横たわる全裸の男性と、その横に座り込みタバコを吸いながら通話をする同じく血まみれの女性、そして現場に駆け付けた警察官たちの姿。これこそが片山監督が着想を得たという1枚の写真に写されていた衝撃的な光景であり、それを冒頭でいきなり見せる突拍子のなさにはまんまと意表を突かれました(ちなみに例の写真は「新宿ホスト殺害未遂事件」と検索するだけで簡単に画像がヒットしてしまうので調べる際には重々注意して下さい)。そこから物語は逮捕され取調べを受ける女・紗希が恋人・翔との出会いから事件に至るまでの経緯を回想していく形で語られます。ここで描かれる数々の危うさとその無自覚なエスカレートぶりは『岬の兄妹』とも完全に共通する部分ですし、翔に対する紗希の”危うさが充満し切った愛情深さ”、すなわち「一度バランスを崩せばもう取り返しが付かない不健全な関係」には尋常じゃない緊張感と居心地の悪さを感じます。そして彼らの引き伸ばされた危うい関係を一瞬で破綻させてしまうその引き金が突如”一つの絵”としてドンッと画面に表れてしまう中盤のあるシーンには思わずギョッとさせられました。そこには文字通り”愛憎が渦を巻く”ようにある人物の不安定な精神が反映されており、これぞ片山慎三の真骨頂とも言うべき”純映画的なスリル”に満ちた本作屈指の名シーンだと思います。

よく考えてもよく考えてみなくても、劇中で描かれる翔のダメ男ぶりや前述の”名シーン”と共に明かされるもう一つのトラブルはテレビ番組やSNS上でも頻繁に耳にする話ですし、ましてや殺人事件にまで発展する程大層なことでは全くありません。自分も翔の行いは明らかに間違いだとは思いますが、それにしても終盤では「どうしてそこまで・・・」と何度も声を漏らしていました。ただこうした事例以外にも、虐待や飲酒運転により他人の命が奪われるといった報道を見るたびに「どうして」という怒りや不条理さを我々は日頃から感じてしまいますし、更にその原因は今回のように極めて小さく些細なことの積み重ねだったりもします。本作は盲信的に恋人を愛することで「正常な判断を失っていく」ことの危険性を暴き立てると同時に、それはつまり「誰の身にも起こり得る」ということを改めて問い掛けるような作品にもなっていると思います。片山監督の様々なエッセンスがまさに濃縮された一作ですし、来年公開の長編第2作目『さがす』も非常に楽しみです。






















































































































































脇のキャストの顔もいちいち良い。特に取調官の女性はインパクト絶大。
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