KnightsofOdessa

ボヤンシー 眼差しの向こうにのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

3.0
[自ら浮力を勝ち得るには] 60点

家族の営む米農家から独立することを望む14歳のチャクラ少年は、仕事を求めてカンボジアからタイに密入国し、そのままトロール漁船へ奴隷として売り飛ばされる。船の上のみで22時間近く活動し、狭い塒に押し込められ、反抗する者は海に投げ捨てられる。昨年のベルリン国際映画祭パノラマ部門に出品され激賞された本作品は、Rodd Rathjen長編デビュー作でもある。また、オーストラリアの作品でありながら、クメール語とタイ語しか使われない作品でもある。

船上では、いずれペットフードになる雑魚を船に空いた穴にぶち込み続ける仕事を延々と続け、時たま捕獲できる大魚を船長に持っていく仕事も発生する。チャクラは他の船員に比べ、無表情かつ無感情に仕事を遂行するために船員たちから気に入られていき、他の奴隷たちは彼に嫉妬の目を向け始める。自分の安全を確保するため、チャクラ少年は船員たち以上の異常性を覚醒させていく。船員たちのいる操舵室は奴隷たちの働くデッキから見上げる形になっていて、何度も登場する印象的な視線のパワーゲームがこの間で繰り広げられる。そして、デッキの下にある穴に名前すら分からない小魚を棄てるように入れることで、それがあたかも自分自身であるかのような錯覚すら与えていく。

興味深いのは周りにある海が"死"の象徴として使われている反面、チャクラは立ち寄った漁港で海に浮かんでいたり、スクリューに引き込まれた網を切るために海へ潜ったり、誰よりも死へと自分で近付いているようにも見えることだろう。"浮力"というタイトルは、沈んでいく死体や穴に落とされる雑魚に反抗し、水面から出ていこうとさえするチャクラ自身を指し示しているのかもしれない。こうして、映画は"落ちる"ことに反発して"浮く/登る"ことを求め続ける少年の後を追い続ける。

全体的にやや寓話的というか説明的な教訓物語みたいな側面が強いように思えるが、長編デビュー作として社会問題と芸術性をここまで両立出来るのであれば今後を期待するしかなさそうだ。