空海花

海辺の彼女たちの空海花のレビュー・感想・評価

海辺の彼女たち(2020年製作の映画)
3.8
日本における外国人技能実習生の失踪問題を扱った作品。
ベトナムから来た3人の若い女性たちは
ある夜、過酷な職場から脱走を図る。
電車に乗り、フェリーに乗り、
互いを気遣いながら疲れ切った顔でそこに向かう。
ブローカーを頼りに辿り着いた場所は雪深い港町─
監督・脚本・編集 藤元明緒
プロデュース 渡邊一孝

サンセバスチャン国際映画祭 新人監督部門選出。
東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門出品
カイロ国際映画祭インターナショナル・パノラマ部門出品

近年、外国人技能実習生の苦境が社会問題として注目される中
藤元監督は技能実習生からSNSを通じて届いたSOSメールをきっかけに着想したという。

⚠️ネタバレ的な話ではないので途中までの内容に触れます。
気になる方は止めておいてください。


ブローカー役の男性もベトナム人だが、身につけているもの、車は良いものだ。
一応優しい言葉も掛けるが、心を許せるかというとそうではない。
実習先では1日15時間働き、残業代も出ず、休日もほとんどなかったと車の中で話す。
この港町の仕事は夜間まで働くシーンはないし、休日もあるようだ。
ブローカーが支払いはちゃんとしてくれるというのも間違いではなさそう。
それでも彼への支払いは1度だけではない…
日本の制度だけではなく
同胞からの搾取という実態もある。
仕事は漁船の魚の仕分けなどの手伝いで肉体労働。
与えられた小屋はカーテンで仕切って寝て、食事をするだけの場所だが、
家賃がかからないので今までよりはいいのかもしれない。
錆びた冷蔵庫が物悲しい。
暖かい国から来た彼女たちに
雪国は寒そうだ。
また不法就労の怯えはどうしても常にある。

辛くても帰ることは選べない。
実習生は手数料を支払って来ているため
借金を抱えている場合も多く、それを残して帰国することはできない。
送金できなければ家族が路頭に迷う。
彼女たちの願いは自分のことより
家族のことばかりだ。

仕事場には日本人は少ない。
日本では過酷な労働に若者は就かず、
地方の労働は技能実習生頼みの実態がある。
留学生だと少しは待遇がいいらしい。
不法就労なので税金を払わなくていい、という台詞も忘れていない。

キツい仕事でも彼女たちは助け合い頑張っていこうとするのだが…
1人が妊娠していることがわかり
不穏な空気が差す。

雪国を私は知らないけれど
雪の積もる港町はまさに日本の景観で
カメラは彼女たちの表情に寄り、不安や郷愁の念、無邪気さを交互に映し出す。
妊娠した子を追うカメラはやや手持ちのブレがあり、更に苦しそうな表情に少し気持ち悪くなり、こちらもグッと堪えたままその姿を追う。
劇伴はなく、彼女たちと同じ音の中に居させられるが
行く末を見守ることしかできない。
カメラマンは自分が雪を踏む音が入らないよう裸足で撮影したというエピソードには驚愕した。

結末は、あっ… と途切れるように終幕する。
彼女たちの物語は終わらない。
現実はずっと容赦なく続いている。


低予算作品であるが、登場人物はベトナム人をオーディションで起用し、
ベトナム側のプロデュースも得ており
内容的にもワールドワイドな題材でもある。
また、ロケ地では、港、船、小屋、町、病院など様々なロケーションをリアルに映すため、現地の全面的な協力を得て完成している。
製作者側の自分たちの表明や現地との対話・説明がいかに念入りであったかを物語る。
エンドロールでは協力してくれた多くの人たちと
胎児(エコー写真に映る子だろう)もキャストとしてクレジットされていた。
渡邊プロデューサーは、インディペンデントな映画として僕たちが作るには、僕たちじゃないと作れないことをやるべきだ、と語っている。
藤元監督はミャンマー人の奥様がいらっしゃるようで、日本で移民として生きる困難は妻の体験談も大きく参考になっていて、またこの映画を作った理由の1つでもあるようだ。

上映館は少ないが、見かけたらぜひ応援してほしい、誠実さを感じる作品。

世界第4位の移民大国である日本
日本の実情から今後も増えていくだろう。
日本人の無関心さと想像力の無さを痛感する。自分も含めて…


2021レビュー#128
2021鑑賞No.275/劇場鑑賞#33


トークショーを逃してしまった作品😣
ぜひともお話を直接聞きたかった。
代わりにパンフ買って熟読しました。。
空海花

空海花