ひこくろ

海辺の彼女たちのひこくろのレビュー・感想・評価

海辺の彼女たち(2020年製作の映画)
4.2
ここまで絶望感しか残らない映画もすごいなと思った。

日本って世界に比べればわりと恵まれている国だし、ひどい現実にも限度があるとは思ってる。
それでも、こういう理不尽な世界は確かに存在するし、その現実に追い詰められている人たちも間違いなく存在する。
劣悪な労働環境のなか、過酷な労働を押しつけられる技能実習生の彼女たちは、文句を言うこともなく、搾取されても諾々と従うしかない。
弱い者に対して、強い者たちは容赦がない。

尊厳を奪い、権利を奪い、個人をも奪い、それでも足りないとばかりにあらゆるものを奪いにくる。
弱者にとってできることは、ただ奪われていくことだけだ。
理不尽な現実を前に打ちひしがれながら、ただ生きていくことしかできない。
そこには、わずかばかりの金以外、弱者の手に入る物は何もない。
彼女たちは、そこでは子供を産むことさえも許されはしない。

あまりにも理不尽で残酷な現実。
映画はその現実に対して、光を当てることも、希望を描くこともしない。
あるのはただ、延々と続く絶望だけだ。

ほんのひとかけらの救いすら拒否してみせたラストに、監督の強い意志を感じないではいられない。
「これを見ろ! この現実を直視しろ!」
丸でそう叫んでいるかのような、静寂が耳に痛く重く残る。

心の底に嫌な感じの棘が残ったままになるような、そんな映画だと思った。
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