のん

ノマドランドののんのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.5
現代アメリカ社会の縮図


今年のアカデミー賞のフロントランナーを突っ走る本作は、ノマド(遊牧の民)と呼ばれる人たちのミクロな視点を通じて、リーマンショック以降のアメリカ社会の縮図をマクロな視点で描く、その作劇の構成がとにかく見事だ。


『ファーゴ』『スリー・ビルボード』で2度のオスカーに輝くフランシス・マクドーマンドは今回も抜群の演技で最後まで楽しませてくれるが、圧巻は彼女を取り巻くノマドの人たちだ。


エンドロールをみれば役名と演者の名前のほとんどが一致していて、おそらくは本物のノマドたちが、各々の境遇をとつとつと語るシーンは、マクドーマンドさえ霞ませる強烈なシーンとして機能している。


次回作はMCUの大作も手がけるクロエ・ジャオ監督は、本作におけるノマドがリーマンショック以降のアメリカ社会の何を象徴しているのか、それをさりげないシーンで見せてくれる。



不動産バブルの急騰による経済システムの崩壊がノマドたちに「家を持てない」のではなく「家を持たない」選択肢を与えた。このことを主人公の家族とのわずかなシーンで観客に理解させてしまう。恐るべき才能だと思う。


家を持たないノマドたちが巨大な資本の仕組みの中で働き、生きる。この作品ではその行為そのものを肯定していて、まるで詩の世界のような豊潤で味わい深い作品だ。
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