ブルームーン男爵

ノマドランドのブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.0
ヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞作。ノマドは遊牧民・放浪者の意味だ。会社が閉鎖され、夫にも先立たれた主人公は車に住み、各地を転々として日銭を稼いで放浪する。

自由に生きる人たちというイメージもあるが、実際は社会的弱者であり、自由さの一方で、絶望でもなく失望でもないが誰しも影を持っている。社会から弾き出された、または意図的に離脱したノマドは彼らで独自の関係性を築き助け合う。豊かな米国とは異なる一面を垣間見せる。

映画で映し出される風景がとにかく美しい。漂泊の旅人 芭蕉だったら一句読んだだろう。本作はロードムービーとも社会派映画でともいえるが、哀愁と詩情を湛えている。

主人公は「ホームレスではないハウスレスよ」という。ホームは心の中に永遠にある。ラストに主人公はもはやゴーストタウンと化したホームを訪れる。もはや朽ちていくしかないその家も、しかし、彼女にとっては永遠に心の拠り所であり続ける。

ノンフィクション小説「ノマド漂流する高齢労働者たち」が原作であり、映画の持つリアリティは本物だ。随所に散りばめられた言葉の数々はどれも書き留めたいほど美しかった。

そしてメランコリックなピアノの旋律が美しいが、音楽を手がけるのはイタリアの巨匠エイナウディ。ピアノの音色が、クリスタルのように感傷を乱反射させ輝かせる。映画批評家からも絶賛されているが、本作は批評家をうならせる説得力がある。