タケオ

ノマドランドのタケオのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.4
 かつての総中流の夢はどこへやら。アメリカの経済格差は近年加速度的に広がっていき、遂には富裕層の上位1%がアメリカの総資産の約4割を独占するという「超格差社会」へと姿を変えてしまった。短期労働で食い繋ぎながらバンでアメリカ各地を放浪する現代の遊牧民=ノマドは、正にそんな「超格差社会」を象徴する存在だといえるだろう。
 かつての教え子に「先生はホームレスになったの?」と聞かれた主人公のファーン(フランシス・マクドーマンド)は、戸惑いつつも笑って返す。「私はホームレスじゃなくてハウスレス、別物よ」と。確かにファーンは、2008年のリーマンショックによってハウス(家)を手放すことになった。しかし、だからといって全てを失ったわけではない。彼女にはまだホーム(故郷)が、アメリカの大地という心の拠り所がある。ノマドとして生きることを決めたファーンの前に広がるアメリカの大地はどこまでも雄大で、そして美しい。アメリカという国の「美」と「残酷」の双方をどこまでも「映画的な画」として切り取る圧倒的なセンス、正にクロエ・ジャオの真骨頂である。
 過酷で厳しい生き方ではあるが、それでもノマドの人々は前を向いて歩み続ける。望んだわけではもちろんないが、それでも「ノマドとして生きる」という'自らの選択'に自負があるからだ。「信念」と「誇り」を抱き続ける限り、「超格差社会」という「絶望」の中にも「希望」はある。西部開拓時代から変わることのない「フロンティア精神」が、『ノマドランド』(20年)には満ちている。
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