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ノマドランドのTEPPEIのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
5.0
鑑賞作を立て続けに満点つけるのは、きっと私的には稀なこと。興味深いことに今年のオスカー対抗馬同士、同時期に鑑賞して、「ノマドランド」と「ミナリ」の両作がいま最もハリウッドに欠けていた「アメリカ映画作品」に息を吹き込んだだけでなく、凄まじい付加価値をつけた。
そして「ノマドランド」はアメリカ、リーマンショックという大不況で虐げれた人々の真実味に説得力を持たせただけでなく、絶望を説くことなく、この世界は生きる価値があると勇気づけてくれる傑作になった。

この作品にはスタッフやキャストの徹底さと、緻密に描かれる経済恐怖と不安定な生活描写の素晴らしさにある。
2008年のリーマンショック以来、その煽りを受けた多くの高齢者たち。専門的知識を持っていた労働者たちは自家用車を家に、全国各地の日雇労働に従事するしかなかった。
遊牧民のNomadにちなんで、現代のノマドと比喩される者たち。ホームレスではないが、ハウスレス。しかしノマドたちは自尊心や互助の精神を持って、旅をしている。
主人公であるファーンもまた、ノマドの生活を送っていた。

非常に西洋文化への憧れを強く感じる一作に思えたのだが、監督であるクロエ・ジャオは中国生まれで両親は離婚。西洋の大衆文化への憧れが親への反抗心の表れだったという。興味深いのは英語圏のアウトサークルであるアジア人監督が、ロンドン、カリフォルニアというステップを踏んで、自らが描く外から見る世界観とアメリカのリアリズム精神がこの作品の一番面白い点になっていることだ。ディケンズやスタインベックもびっくりだろう。クロエ・ジャオ監督の背景もこの映画に大きく貢献しており、あの美しく、壮大な景色を詩的に、目を奪われるアングルで撮っている。それだけでも凄まじい。

主要人物であるフランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン以外の登場人物は実際に車上生活を送っているノマドたちである。嘘だろって思うくらい、みんな役者顔負けの演技をするのが驚愕。でも彼ら彼女らからすれば、日常の会話なのかもしれない。自然で、詩的な雰囲気が人々の関係性をも映してくれる。フランシス・マクドーマンドは実際にノマドの生活、日雇い労働もこなして役作り。最後の最後まで多くを語らない、表情や語気だけでジリジリと伝わる、この映画にピッタリの大女優だった。演技上手すぎるというより、もう現代のノマドそのものだった。
よってすっかり主演女優に喰われてしまった感が半端ないデヴィッド・ストラザーンは変わらずイケおじで良かったが、マクドーマンドが強過ぎた。
展開や描写は詩的だから一見小説っぽいんだけど、エンディングでしみじみと余韻に浸って、劇場が明転したころ、ようやくこの映画という旅が一区切りついて、また旅が始まるんだと映画の素晴らしさを痛感するわけである。単純なユーモラスだけを散りばめたロードムービーではなく、社会への警鐘、貧困問題、解放と束縛の物語へと繋がっている。

総評として「ノマドランド」は美しく、力強く、詩的な作品である。スコアもマッチしているし、この映画に非の打ち所がない。
個人的にクロエ・ジャオのオスカー監督賞受賞は間違いないと思う。
ぜひもう一度じっくりと鑑賞したい。
完璧だった。満点💯
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